第38話
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「と、まぁ……そんな感じでな。信じても貰えないし、言葉尻を捉えられて揚げ足も取られるわで散々な感じでさ。本当にもう、八方塞がりでどうしようもないんだよ……」
一通りの愚痴を言い終えた後、俺は為す術無しといった感じに机の上にへと顔を突っ伏した。
やる事はやった感じはするのに、全くといって目に見える効果は見られない。寧ろ、悪化したとも思える。
最早、これはお手上げと言ってもいい。俺の手には余りに余ってしまうレベルの案件だろう。
「何というか、何だかなぁ……」
呆れた様な口調で、そんな言葉が俺の頭の上から聞こえてきた。
きっと、神谷も俺に対して何かを言ってやりたい、慰めてやりたいとかそんな思いやりの気持ちはしっかりと伝わってはくる。
しかし、それをはっきりと言葉には出来なかったのだろう。だからこそのはっきりとしない回答なのであった。
「どうすればいいんだよ、これ……忖度しつつ香花を抱き締めたりでもすれば許してくれるかも、って思ってやってみたのに、それもあまり効果も無かったし……はぁ」
「……お前、そんな浅い考えで行動してたんだな。もしかすると、その思惑が彼女さんに透けて見えて……」
「どうする……これが駄目だったなら、次はキスでもして機嫌を良くしてみればワンチャン……」
「いやいや、ちょい待った。依田、待ってくれ」
俺が次の対策について考えていると、神谷はそう言って制止を求めてきた。
しかも、酔っている俺に気づかせる為か、机をバシバシと叩いてアピールまでしている。俺がかなり酔い潰れていると思っての対応なのだろう。
けれども、そんな事をしなくても待てと言われればしっかりと待つつもりなので、早々にその行動は止めて貰いたい。
この場には俺達以外にも客や店員がいる訳だし、迷惑になる様な行動は避けておきたい。それに、周りの目が気になって仕方が無いのだから。
というか、机を叩いた振動で頭が響いて痛いので、勘弁して欲しかった。
「お前の焦る気持ちも分かるけれどもさ、少し落ち着けって」
「……まぁ、そうだな」
「とりあえず、さ。ここまでの話を聞いた上での俺の感想を言ってもいい?」
「……お好きにどうぞ」
「正直、俺も依田の彼女さんについて熟知している訳じゃないから、はっきりとした事は言えないけど……」
「……けど?」
「言葉で解決しようとしてもさ、無駄なんじゃないかなって思うんだよな。何か、口先でどうかしようとしてもどんどんと複雑に問題が捻じれていくというか……」
……なるほど。確かに、それはそうかもしれないと思えてしまう。
俺がどうにか頑張って何とかしようとしても、この間みたいにどんどんと状況は捻じれに捻じれ、絡まってしまって解けなくなってしまう。
そのせいで、未だに俺はこの状況から抜け出せずにいる。もがけばもがく程、底にへと向かって沈んでいく沼みたいなものだろう。
「じゃあ、どうすればいいんだ……? 説明しようとしても駄目なら、解決出来そうに無いんだが……」
「いや、そうでも無いだろ。そんなに難しく捉えなくても、別のアプローチを掛ければ、一気に解決すると思うぞ」
「……まさか。そんな夢の様な方法が、説明する以外にあるのか?」
「それよりも効果的で、簡単で手っ取り早い方法があるじゃないか」
「……例えば?」
「問題の当人同士に、直で会って貰えば解決するだろうさ」
「……あっ」
気付かなかった。どうしてそんな考えに思い至らなかったのか。完全に盲点であった。
神谷の言う通り、香花と妹を引き合わせれば、説明をする必要なんて全く無い。たったそれだけで誤解は晴れて、問題は解決するだろう。
そう思うと、これまで悩んできたのが馬鹿らしく感じてしまう。どうしてもっと早く、この事に気づけなかったのか。
この案なら間違いなく、俺の苦悩する日々は終わりを告げ、今日みたいに酒でストレスを発散する事も……
「……いや、ちょっと待て」
そこまで考えたところで、俺はある引っ掛かりを感じた。そして今度は、その引っ掛かった事について考え出した。
確かに、神谷の提案は手っ取り早くて効果的でると思う。ただ、それを実行した際に、また別の問題が浮上する事に俺は気付いたのだった。
「香花と妹を会わせたら……それってつまり、同棲している事が妹に伝わる事になるよな……?」
「まぁ、それは当たり前だよな。妹さんに彼女さんを紹介するのなら、関係性を明らかにしないといけない訳だし……」
「……それは、とてもまずいのでは……?」
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