第27話
「それでさ、香花。これからの事なんだけれども……」
「うん」
「香花にも不満や不安があるとは思うけれど、それは俺にだってある訳だしな……」
大小含めれば、そういったものは当然の様に存在する。血の繋がった家族でさえ、生活する上では普通に生じてしまう。
自分以外の誰かと共存する上で、不満が生じない事なんて無いだろう。それがまだ、半年という僅かな期間しか時間を共有していない相手なら、尚の事である。
「そういった事も含めて、今後はしっかりと話し合っていこう」
それを今までは俺が、香花の機嫌を考慮して一方的に我慢をしてきた。我慢を強いられてきた。
しかし、そういった自己犠牲的な行動が、逆に香花の機嫌を損ねる結果となってしまった。
彼女の事を見ている様で、自分の事しか考えていない事を看破され、それが彼女の癪に障ってしまった。
そんな不満が積もりに積もっていき、遂には限界を迎えてしまった事で、香花は凶行にへと走ったのだ。
だからこそ、お互いに納得出来る妥協点を見出せなければ、また今回の様な事になってしまう。
「もしかすると、また香花に寂しい思いをさせてしまうかもしれない。けど、俺も何とか頑張るからさ」
記念日の事だってそうだ。彼女と真摯に向き合い、話していれば俺も気づけていたはずだ。
けれども、俺はそれをしてこなかった。その日を乗り切る事ばかり考えていたからこそ、そういった細かい事に気付けなかった。
自分の安全しか考慮出来ていない、狭い視野で行動していたからこそ、分からなかった発想である。
「だから、さ。今日みたいな事はもう、しないで欲しい。二度としないと誓ってくれ。不満や不安があれば、俺がしっかりと受け止めるから」
「……」
「約束、してくれるか……?」
俺がそう尋ねると、香花は直ぐには答えずに、ゆっくりとした動作で目を伏せた。
そして俺とは目を合わせないまま、彼女はこう答えた。
「……うん、いいよ」
消え入りそうな小さな声だった。香花らしいとは思えない、はっきりとしない態度。
けれども、彼女はそう言って了承してくれたのだ。もう、今回の様に監禁はしないと、そう誓ってくれたのだ。
「その代わり……まーくんも私と、約束してね」
ただし、それで終わりではなかった。当然の事ながら、俺の提案だけを受け入れて終わり、なんて一方的な事にはならない。
香花が俺の提案を受け入れた様に、今度は俺も、彼女からの提案を受け入れなければならない。
そうでなければ、それは不平等とも言える。これから俺達が目指していく、対等な関係性とは違う。
「私を、裏切らないで」
裏切るな。短いながらも、強く俺を脅迫する様な言葉。
しかし、それはどんな意味での言葉だろう。彼女に逆らわず、従属しろという意味合いだろうか。
「まーくんが思った事、感じた事を正直に話して欲しいの。我慢されたり、嘘を言われるのは、嫌だから……」
だが、違った。そうでは無かった。香花が言いたいのは、言葉通りの意味ではなかった。
彼女が要求するのは、俺の考えや思いをはっきりと伝えて欲しいとの事である。
上辺や言い繕った言葉じゃなくて、本音で彼女と語って欲しいのだと。
「まーくんが頑張る様に、私も努力するから。……お願い」
「……分かったよ。約束する」
香花が俺の提案を受け入れた様に、俺もそう言って彼女の要求を受け入れた。
本音で話して欲しいという事は、彼女を拒否する様な内容を伝える事も、時には有り得る。
しかし、香花も覚悟を決めた上で、それを言っているのだ。努力するというのは、自分が傷つく事を受け入れるという事だろうから。
それならば、俺が受け入れない訳にはいかない。彼女の覚悟を尊重しようと思う。
「それじゃあ……」
お互いに要求を出し合った後、彼女はそう言ってから俺にへと再び視線を合わせてきた。
「絶対に破らないって、約束しよ……?」
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