静かな寝室

霜月秋旻

静かな寝室

私は、ママについていくか、パパについていくか迷っていた。


両親の間にすれ違いが生じていることは、薄々気づいていた。


私の部屋の隣には、両親の寝室がある。前までは夜になると、両親の話し声が隣から聞こえてきてて、うるさくて眠れなかった。でも最近は、ドアやカーテンを開け閉めする音だけが虚しく響くだけ。


そしてついに、その日は訪れた。ママが、パパに対して離婚話を切り出したのだ。私はパパとママ、どちらについていくか、決断しなければならない。


ママについていけば、ママの美味しい手料理をこれからも食べ続けることができる。でもママは今、失業中だ。この先まともな職業につけるかどうかわからない。安定した生活は期待できない。


安定した生活を望むのなら、パパについていくべきだ。一流企業に勤めてるし、これからもお金に困ることはない。でもパパは料理ができない。これから毎日、スーパーのお惣菜を食べることになるだろう。ママが寝込んだときもそうだった。


その後、両親の離婚が成立した。結論から言うと、私は一人になった。どちらかを選ぶなんて、私にはできなかった。どちらかを傷つけてしまうことになるから。


それに私はもう三十八になる。パパやママから離れなければならなかったのは、私の方だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

静かな寝室 霜月秋旻 @shimotsuki-shusuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ