今、思えば…

 今、思えば あのとき。

 リョウちゃんを初めて、”男の子”だって 意識し始めた瞬間だったかもしれない。




 

…――――― 

 ――――数分後……。



「う~ん……」




 私は、おソバ屋さんのメニューと格闘していた。




 ここは、学校から家までの境目にある小さなおソバ屋さん。



 リョウちゃんが、バイトの前に「腹ごしらえをしたいから」っていう理由で、この場所へ立ち寄った。




 値段も比較的安くて、近所でも「美味しい」って評判の飲食店。

 よく学校帰りに、リョウちゃんと一緒に食べに来ていた。



 リョウちゃんは「先に選んでて」って言うなり、どっかへ行ってしまった。



 しばらくメニューに見入っていたとき。



「いらっしゃいませ。

 ご注文はお決まりですか?」


 って、店員さんらしき人に声をかけられた。




 えっ?

 もう!? 

 早っ!!



「えっっと じゃぁ これ…っ!!」



 …!?!?!?




 見上げると、席へ戻ってきたリョウちゃんが、爆笑していた。

 てっきり、店員さんだと思ったその声の主は、リョウちゃんだった。



「ぶはははっ!!! 騙されてやんの」



 その場で腹を抱えて大爆笑しているリョウちゃんを見て、一気に冷めてしまった。



「ちょっと…… 笑いすぎなんだけど~~~~」



 私は、か~~~~って真っ赤になり、その場から早く立ち去りたくなった。



 周りのお客さんも、ひそかに笑っちゃってるし~~~。


 もうっ! 

 さっき思ったことは取り消し~~~~~!!


 リョウちゃんをほんの一瞬でも“男の子”だって意識して………。

 ばっかみたいっ!!

 やっぱり、“友達以上”なんて絶対ムリ~~~~~!!



 その後、おソバを食べてるときだって。



「お前って… ソバ食うの下手だよなぁ~」



 って、人が気にしていることを言いたい放題。

 でも、そんなにはっきりと言わなくてもいいじゃないっ!!



 心の中では、ほんの少しだけど。

 淡い恋心を抱いていたのに、見事に裏切られてしまった。


 私は、はぁ~って小さく溜息をついた。






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