『デート』のお誘い

 四人で行動するようになってからは、毎日が楽しかった。

 そのころが、多分 一番楽しかったのかも……?

 もし、時間を戻せたら…――。

 もう一度、やり直せるのに…―――。




「サオリちゃん!

 いつになったらしてくれるの!?」


「ひゃっ!!」



 突然、机の上をバンっ!って叩く音がして、ビクッとなった。



 ふと見上げると、トオルくんが焦れったそうな顔をして、見下ろしていた。



「電話番号とか、訊いてもいい?」




 え…。

 この前、言ったって、冗談じゃなかったの?



 初めてトオルくんと話した翌日、『“デート”しようよ』って口説かれたことを思い出した。


 でも結局、上手く断れないまま…そのままになっていたんだっけ。



「今日こそは、応えてもらうからねっ」



 うぅ~ もう逃げられない~~~~。

 何て 応えたらいいんだろ……?



 動揺しながらも、口を突いて出た言葉は…――。



「トオルくん。た、大変ねぇ~。

 あれだけの女の子たちの誘いを断るのも……」


 と言ってみて、すぐに後悔する。


 さっき、何人かの女子生徒たちに言い寄られていたトオルくん。

 てっきり、断るのに手間取っていると思ってた。


 だけど、実際は違ってた。




「断る? オレ、断ったことないけど」


 って、あっさり応えられた。




 え………。

 もしかして、全部受けてるってこと???



「そんなこと心配しなくても大丈夫だよ」



 別に、心配してないけど……。



「サオリちゃんが“デート”したいって言ったら、ちゃんとスケジュール空けとくからね」



 あ~ そういうことね。

 だから~。

 そうじゃなくって………。




 予想外の展開にどうしていいか分からず、どぎまぎしてしまう。



 やっぱり、この人 苦手~~~。




「あれ? おかしいな……」


 トオルくんが首をかしげながら、後方のズボンのポケットに手を突っ込んで、必死で何かを探していた。



 すると、突然背後から、誰かが声をかける。


「今、そこで拾ったんだけど」


「げっ ユ ユウコ……!」



 いつの間に取り上げたのか、トオルくんのアドレス帳を目の前で、ちらちらと見せつけていた。



「あ… そそれはっ! いつの間に……!?」


「これ、捨てちゃおっかな~」


「か 返せよ!」


だ あたしと“デート”する気があるなら、返してあげる」


「くそ~~~ お前は… 詐欺の常習犯か」




 それから数分間…――。

 二人の激しい言い争い。



 さすが、年季が入ってる~。




 そのとき突然、強い風が吹いてきたかと思うと。

 ユウコの手に持っていたトオルくんのアドレス帳が……。

 宙に舞った。



 そして、そのまま窓の外へ真っ逆さまに落ちていった。



「あ… ごめん! …手が滑っちゃった」


「お前… 誰かに拾われたらどうする気だ!!」


「あたし、し~らない」



 ユウコは、そう言って素知らぬフリをする。



「くそ! 取りに行ってくるっ!!」



 トオルくんは、アオい顔をして教室から飛び出して行った。



 ちょうどそのとき、リョウちゃんがトオルくんと入れ替わりに教室に入ってきた。



「早く帰ろうぜ」


「う、うん」




 ユウコは、トオルくんのアドレス帳が落ちていった窓の外に目を向けていた。



「ん? どうした?」


「トオルくんのアドレス帳が……」


「は?」



 今まで起きた状況を何も知らないリョウちゃん。

 当然、キョトンとした顔をしている。




 ユウコを教室に残して外へ出ると、アドレス帳を探しているトオルくんの姿が見えた。



「あ… トオルくん」


「ホントだ」



 こっちには全く気付かないトオルくんに、リョウちゃんがニヤッとした笑みを浮かべると、大声で呼びかけた。



「トオル~! アドレス帳あったか~?」


「馬鹿っ! 声がでかいよ」


「もう、誰かに拾われちゃった?」


「早く、帰れよ……」



 悪戯っぽい笑みを浮かべてからかうリョウちゃんに、トオルくんは 相変わらずご機嫌斜め。



 いつもは、クールで、女子生徒からも憧れの存在のトオルくんが、今日は必死でアドレス帳を探している。



 その光景が可笑しくて、思わず「ぷっ!」と吹き出した。



 トオルくんには申し訳ないけど、笑いをコラえることが出来なかった。




 ごめんね。

 トオルくん……。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る