久しぶりに交わした会話

 その日の放課後――。



 職員室からの帰りに、同じクラスメートの女子を誘って、リョウちゃんの家へ向かっていた。



「ねぇ、サオリ~ やっぱりめようよ~」


「イヤなら先に帰ってもいいよ。リョウちゃんは、そんなに悪い子じゃないんだから~」



 担任の先生から教えてもらった住所と地図を頼りに、私たちは歩いていた。



「確か、この辺りなんだけど…――」



 先生に教えてもらった地図を見ると、この建物…かな~?





 見ると、それはあまり目立たない敷地にポツンとタタズんでいる二階建ての小さいアパートだった。



 ここに住んでいるんだぁ…――。



「あの~ ……あたし、やっぱり帰るね…」



 急に怖気オジケづいたのか、一緒に来ていた彼女が申し訳なさそうに言った。



「いいよ。後は平気だから」


「じゃ、気をつけてね」



 そう言うと、後ずさりしながらその場を立ち去って行った。




 一人だけポツンと残されると、何だか急に不安になった。


 追い返されたらどうしよう………。



 ふぅ…――っと、一回深呼吸。


 よしっ!

 行こう。


 私は、アパートへ向かって歩き出した。




 コンコンコン……。


 ブザーがついてなかったので、ドアをノックする。

 すると、中から返事が聞こえた。



 ドキドキドキドキ……。


 私は、高鳴る鼓動を懸命に抑えていた。




「誰……?」



 部屋の中から人の声が聞こえたかと思うと。

 突然、アパートのドアが開いた。



「こ、こんにちは。同じクラスメートのサオリだけど、覚えてる?」


「あぁ。まぁ、一応… 入れば~?」



 リョウちゃんは、初めのうちはびっくりした顔をしてたけれど、「どうぞ」というふうに、中へ入れてくれた。



 これが、中学生になったリョウちゃんと久しぶりに交わした会話だった。


 あのときは、ものすごぉ~く緊張しちゃった。




 リョウちゃんのお父さんは、建築関係の仕事をしていて、その日は仕事でいないみたいだった。


 狭い居間らしき片隅には、リョウちゃんのお母さんの若き日の写真が置かれてあった。


 小さいころ、病気だって聞いてはいたけれど。

 一度も、会ったことはない。


 写真の顔は、穏やかで優しそうな顔立ちだった。


 どことなくリョウちゃんに似ている。



 私は、お線香をあげて手を合わせた。


 リョウちゃんは、それを黙って見てたけれど。

 すぐにそばに座って、一緒に手を合わせてた。



 それがきっかけで、ちょっとずつちょっとずつ、距離を縮めていったっけ。



 停学処分が解けて、学校へ通いだすようになると、最初のころは『不良』というレッテルを貼られて、悪い仲間たちが集まって来ていた。



 あのときのリョウちゃんは、他人に心を開いてなかったけれど。

 今じゃ、人が変わったように優しくなった。



 中学二年にあがるころには、リョウちゃんへの悪いウワサは、次第に消えていった。



 担任の先生が、私とリョウちゃんが昔馴染みの知り合いだということを知って、中学の三年まで私たちを同じクラスにしていたらしい。



『問題のある生徒』は、何処か別のところへ追いやりたい……。



 ただ、それだけの理由で…―――?




 だけど。



 それと同時に、私たちが付き合っているというウワサも流れてたみたい。



 このときは、まだそれほど意識してなくて……。


「リョウちゃんとは、タダ!!」



 …って、そう思っていた…―――。






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