15-7
ネット喫茶で遭遇したアルストロメリアと呼ばれた女性、彼女はその名前が無意味なのかは不明だが逆に笑った。
推理が外れた事に対しての笑いだったのか、それとも正解したからなのか――その種明かしをしないままに彼女が付きつけた現実――。
「こう言う事なのよ。ある人物によってバラバラになった世界を、ハッチワークのように足した結果――」
(まさか?)
マルスは目の前にあったインターネットのサイトと思わしき存在に対し、驚くしかない。
まるで、そのサイトは自分達が見たような物だったからである。
(そんな事が――)
団長もサイトと思わしき存在に驚く。そして、その内容は明らかにあの作品で生み出された物と――。
それならば、目の前のアルストロメリアと呼ばれた女性は何者なのか?
(やっぱり)
リアクションが違っていたのは、
全ては、ある人物が生み出した二次創作としての物語――それが、この世界の正体だったのである。
深層WEBと言っても、自分達の世界では深層WEBかもしれないが、アルストロメリアのいる世界では当たり前のように閲覧できるサイトだったのだ。
「答えをバッサリと分かりやすく言うと、第三者が生み出した二次創作――本来の世界とはかけ離れているのだ」
再び彼女はノートパソコンをテーブルの方に置き、話を続ける事にする。話と言うよりは、一種の種明かしだろうか?
「明らかにおかしいと分かっている人物もいただろう。しかし、それでも答えに到達した者はいない」
アルストロメリアと呼ばれた女性、このままでは不便そうと考えた彼女は――自分の背後で別のプレイヤーがプレイしているゲーム画面を見ていた。
「アルストロメリアとは自分は違うし――なるほど。では、ここからはアイオワと名乗ろうか」
ゲームのジャンルはどうでもよく、そこに見えた名前を拝借する事にする。そして、彼女はアイオワと名乗る事にした。
実際のゲームは艦艇物のゲームに見えたが、そこはあまり気にする事はない様子。
(アイオワ? そう言えば――)
名前の由来は別として、アイオワと言う名前に舞風は聞き覚えがある。
どのタイミングで聞いていたのかはあいまいだが、間違いない事は一つあった。
それは、鍵の持ち主としてのアルストロメリアと遭遇した際である。つまり、あの人物の正体は――。
しばらくして、アイオワは店の外に出るべきか悩む。しかし、周囲の状況を判断して別のテーブル席へと案内した。
そこで全てを話すようである。一体、彼女は舞風達の知らない何を知っているのか?
「一応、君たちに断わっておくことが一つだけある。自分は全ての元凶ではない」
ここに来て、まさかの発言に対しマルスは納得できる回答を求めるが――制止したのは団長の方だった。
「あくまでも、我々の目的は深層WEBという存在が全てを操っているという話を掴んでの事だ」
「その答えでは、半分間違っているね。元凶が深層WEBなのは認めるけど、自分じゃない」
「その証拠は――鍵として具現化したアルストロメリアね」
舞風は、アイオワの一言を聞き――さらりとアルストロメリアの名前を出す。それに対し、アイオワはリアクションを変化させた。
おそらくは正解だろう。そして、それが今回の件を複雑化させた原因かもしれない。
「あなた達があの世界に呼び出したアルストロメリア、それは自分よ」
「どういう事だ? まさか、向こうの世界にお前を呼んだという事か?」
「本来、自分はアルストロメリアとは名乗っていない。しかし、WEB小説作品でアルストロメリアが複数いると言う事もあって、不完全な形で具現化した結果――」
「そう言う事ね。同姓同名キャラにはよくある事――」
団長の言う事に対し、アイオワはまさかの回答をする。つまり、このニアミスが全てを混乱させた元凶なのだ、と。
舞風の方は、もはや何でもアリな展開に対して冷ややかだが――。
「不完全な具現化と言えば、あの連中も具現化させようとして失敗していたみたいね」
アイオワは、まとめサイトの勢力がやろうとした事も把握しているようだ。
神視点を持っている様な気配もするが――実際は、そうとは言えない。あくまでも、彼女はプロットとして『想定されていた』話位しか認識していないだろう。
「失敗? やっぱり、あれには法則性があったと」
「その通りよ。ヴァーチャルレインボーファンタジー、それはファンタジーに見えてファンタジーではないもの」
舞風は法則性に関して言及するが、それに対してアイオワの反応は予想外の物だった。何と、あの世界はファンタジーではなかったのである。
さっくり説明すると、あくまでも現代ファンタジーと言う概念は持っていたようだが、それは魔法要素ではなく――魔法以外の要素でファンタジーを構築しようとしたのだ。
しかし、結局は読者に好まれるのは異世界ファンタジーであって、現代ファンタジーは遅れている――と。まるで、彼女は小説サイトの人気作傾向を知っているようでもある。
「それに、この世界からすればヴァーチャルレインボーファンタジーは一次創作の範囲よ」
アイオワのメタ発言に対し、マルスも困惑するが――それ以上に困惑していたのは団長の方である。
「待ってくれ。WEb小説サイト、小説賞やコンテストの応募作品は一次創作が前提のはず。その話では――」
「その通り。二次創作だとWEB小説サイトでは一部の夢小説や実在人物題材位しか注目を浴びない。つまり――」
アイオワが団長の指摘に答えようとした時、それを遮ったのは舞風の方だった。
「まさか、マルスの正体を知っているの? アイオワ――」
それに対し、アイオワはどうしようか悩む。こればかりは賛否両論であり、こちらの口から言葉を出すのは――。
「二次創作としてのメアリー・スー。それが――」
自分の存在、それを自覚したマルスは自分から口を開いた。これ以上、他のメンバーに迷惑をかけたくない事情もあるだろう。
そして、全てに決着を付ける為にも――自分がこの問題に正面から向き合う重要性も悟る。そして、あの存在に立ち向かうべきなのだ、と。
二次創作メアリー・スーに対しての負の感情が生み出した存在、それがマルスだった。その目的はまとめサイト的に言えば『SNS炎上』である。
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