13-4
ドアは半開きになっているようで、隙間から見ると――そこには私服姿のマルスがいる。
ビスマルクはドアが半開きでも、ノックをしてからドアを開く。特にマルスは来客に気付いているかどうかは不明だが。
(マルスはいるようだ――な?)
ビスマルクは、彼がチェックしていたサイトを見て驚きのあまりに言葉を失いかけていた。
そのサイトとは舞風が密かにチェックしていた小説サイトで、そこに掲載されている小説こそが――。
「なんだ、これ?」
あまりの状況に、あらすじだけをチェックした段階で言葉が震えている。
その内容は、明らかに自分達を題材にしたような二次創作にも近いような――。
(これはノーマークだった。まさか、こう言う展開になってくるとは)
ビスマルクも、これに関しては言葉が出ない。まさか、一連の事件をリアルと認識出来るのは一部だけだろう。
草加市に関心のないような人物からすれば、創作の題材にもってこいと言うべきか。
それに、彼らは仮に二次創作の登場人物だったとしても――それを更に別の登場人物へ差し替えれば、最低でも権利者削除のようなケースは避けられる。
一方で、
「このご時世で情報を喋る位なら絶命した方がマシ――とは言わないよね」
ハヤト・ナグモは両腕を特殊な拘束具で縛った男性に対して警告を行う。男性の方は拘束具に手を触れようとはしない。
何が起こるのかは、隣で気絶をしていたもう一人の男性の状態が物語る。彼は拘束具を解除しようとして、軽いショック状態になっていた。
「これもARゲーム技術の応用だ。ゲーム上でダメージを受けた際の振動を吸収する装置だが、それを逆にしたら――」
瀬川が取りつけていた物、それはARゲーム用のインナースーツなどに取り付けている衝撃吸収システムである。
このシステムを逆に振動する仕様にしたら――というのが、彼らに取り付けた小型拘束具だった。
おそらく、彼らに見えている電撃で出来たロープもAR技術によるもので、CGなのだが――見事に騙せている所を見ると、そう言う事だろう。
「馬鹿な。ここまでの技術を既にゲームで再現できるまでになったのか?」
「それは違うな。ゲームだからこそだ。そうでなければ、ここまでの物は作れていない」
拘束されている男性の疑問に答えたのは、瀬川の方である。ゲームの単語を強調するあたり、これはあくまでもゲームの一環と考えているのだろう。
それを証拠に、気絶していた別の男性の方も気絶状態から元に戻りつつある。どうやら、一定時間のショック状態と言う方が適切だったのかもしれない。
「こちらが聞きたいのは一つだけだ。黒幕の正体、初代蒼流の騎士にマルスを呼ぶように指示した人物――」
(指示した? 一体、どういう――)
瀬川の一言を聞き、若干動揺していたのはハヤトの方である。おそらく、聞かされていなかったかぼかされていた可能性もあるだろう。
「黒幕? こちらは勝手に行動しただけだ。掲示板にあったスレの通りに――」
「掲示板のスレ? つまり、更にまとめサイト勢力とは別に操っていた元凶がいるのか」
瀬川の方も、ショックの強さを変えるのはさすがにまずいと考える。それをやったら、完璧に拷問と同じだ。
明らかに対象年齢的にもグロ表現を抑えないと、テレビで放送となった際に関係団体がクレームを出しかねないような令和の時代である。
そこまでの事はしないのを、おそらくは向こうも把握しているだろう。
「そうだ。こちらも話す事は話した。この拘束具を外してほしい」
男性の目を見て、何か罠のような物を感じる瀬川だが――これ以上の情報も得られないと考え、拘束を解除しようとする。
「掲示板のスレ? それでは、平成にあったような大規模テロ等と同じじゃないですか」
「その通りだな、ハヤト・ナグモ。この時代になっても、掲示板をきっかけに起きたテロや通り魔事件――そう言った物は、全て今も残り続けている」
「今も、なお――?」
「お前は自分が転移してきた世界の戦争を、ロボットバトルに変えることで最大の悲劇を回避できた英雄となっているが――」
「それ以上のネタバレは言わないで頂けますか? こちらとしても我慢の限界はあるので」
拘束を解除しようとした男性に対し、ハヤトは更に情報を聞き出そうとしたのだが――逆に向こうを煽るような結果となる。
そして、ある事に関して発言しようとした男性に対し、ハヤトは無言で腹パンを決めようとしていたが、それを瀬川は無言で止めた。
こちらに関してはお前が言うな、という状況かもしれない。
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