12-5

 マルスは舞風まいかぜの部屋とは別の仕事場で考え事をしていた。

アルストロメリアの言葉もそうだが、本当に自分は『自分』なのか、と――。

あの時にアガートラームが使えなかったのは、何だったのかも分からないでいる。

 蒼流の騎士が与えた物とばかり思っていたが、実際にそうだったのかも不確定となってしまった。

その理由の一つに、蒼流の騎士がまとめサイトの管理人で自分を利用しようとしていた事である。

(あの時、声が違っていたのは――)

 自分が遭遇した蒼流の騎士と後に姿を見せた団長とは声が違う。前者はボイスチェンジャーで声が変わっていた可能性も高い。

後者の方は――ボイス読み上げソフト等を使った形跡もないので、あちらは間違いなく――と思うが。

(しかし、あそこまで偶然でも外見は似るのか?)

 最初に姿を見せた蒼流の騎士、団長が正体の蒼流の騎士――どちらも微妙なデザイン違いはあっても全く一緒と言ってもいい。

原作版とコミカライズ版の違い位には大差が見られないが、どうしても気になるのは蒼流の騎士のガジェットキーが複数あるのか、と言う個所だ。

 情報交換の際、瀬川せがわプロデューサーは――。

『団長と言う人物、彼がまとめサイト管理人が使っていた蒼流の騎士のガジェットを回収したと言ってもいいだろう』

 こう、言及していた。まるで、誰かから情報を仕入れたような口調で。

しかし、ガジェットショップでも蒼流の騎士ガジェットは売られていなかったので、一種の非売品ガジェットと言う説もあった。

ARガジェットにはメーカーがデバッグを行う為の試作品をプレイヤーに無料提供する事もあるらしい。ロケテストとは違う手法かもしれないが――。



 瀬川も、蒼流の騎士の情報を仕入れたのはガーディアン経由ではない。あの場では、ガーディアンと思わせぶりな喋り方をしてしまったが。

「それにしても、ビスマルクと言ったか――彼女の目的は何だ」

 社長室ではなく、自宅で情報のまとめをしていた訳だが――ビスマルクから仕入れた情報は、明らかに自分が知りえないものばかりだ。

下手をすればガーディアンでも想定外と言えるような情報も、ビスマルクは知っている様な口ぶりだったのである。

単純に混乱させる為であれば、適当な嘘を重ねれば済むような話なのに――彼女の発言には嘘が交じっている様子はない。

そればかりではなく、安易にまとめサイトの情報を鵜呑みにすれば危険とまで警告している様な物だ。

「アルストロメリアの件を含めて、これは――?」

 瀬川はふと、小説サイトの作品をスコップするスコッパーの記事にたどり着いた。

そこに書かれていたのは、ある作品についての感想なのだが――。

(この内容、まるで――)

 その内容を見て、瀬川が言葉を失ったのは言うまでもない。

コメントにもあるのだが、スコッパーが紹介しているWEB小説の内容を――まるでトレースしている様な事件が起きている。

 しかし、そこに出てくるアルストロメリアはあの時に見たアルストロメリアとは微妙に違う。

(二次創作的なアルストロメリアなのか、それとも――)

 まだ調べる必要性はあるだろうか? 瀬川は、改めてWEB小説サイトを探る事になる。

しかし、この段階では――ビスマルクの言及している事が本当に事実なのか、まだ疑っている段階だった。

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