12-4

 アルストロメリアに敗北をしたマルスは、敗北した事に対して落ち込んでいる訳ではない。

それこそ初めのころはラッキーで勝てていたのが、次第にパターンが通じないという事で負けている。

彼自身も経験不足や慢心で負けたわけではないのは分かっているだろう。しかし、今回に限って言えば相手が悪すぎた。

(どうして――勝てなかったのか)

 舐めプレイ等で負けたわけではない。アルストロメリアには、違う何かを感じたのだろう。

経験だけでは超える事の出来ない物を彼女が持っていたのは間違いないのだが、それが何なのかは分からない。

 何も言わずに自宅へ戻ってきた彼に対し、舞風まいかぜは何も声をかける事も出来なかった。

今のタイミングで声をかけたとしても――それが彼に響かないのは分かっていたから。

(今は、タイミングを待つしか――)

 彼女の方も今までの事を説明しなかったツケが、ここに来て――と言うのはあるだろう。

バーチャルアイドル計画にしても、瀬川せがわプロデューサーの事にしても。



 バトル中、マルスはアルストロメリアに対し何かを――感じた。

動画サイトにアップされている動画自体ではなく、マルスがチェックしていたのは――悪質な炎上系まとめではなく、中立的なニュースサイトである。

このニュースサイトはARゲーム各種やイースポーツを集中して取り扱い、情報量も多い部類だ。

そうした情報量や信用出来るソースから得てきた情報の質も、このサイトが愛されている証拠なのだろう。

『この世界を破壊しようとしているのは、あなたたちじゃないの?』

 そう言われたのである。確かに自分達が無自覚にこの世界を混乱させている可能性はあった。

舞風の以前に言っていた事が正しければ、自分達は明らかにこの世界ではお客様に過ぎない。

だからこそ――下手に干渉しすぎてはいけない事も分かっているつもりだったのに、気が付いてみると――と言う状態だった。

 全力で否定はしようとしたのだが、その言葉が彼女には届かない。むしろ、他人の借りものに近いような言葉では、彼女に届かないのだろうか?

『違うと否定しても、君たちはこの世界では完全にお客様なのよ。自分達の世界とは違う力を振るい、世界を破壊しようとしている事に変わりない』

『いわば侵略者――そう受け取られるほどの力を、上手くコントロール出来るって自信があるのかな?』

『私も、鍵の力を持っていると言われれば――確かに、君の言う侵略者に該当するでしょう。しかし、無差別に暴れまわるだけで世界を変えられると考えるなら――』

 その後の発言は、何を言っていたのか思い出せない。このタイミングでは――と言うべきなのだろうか?

片隅に残るような言葉ではあったはずなのに、思いだそうとすると何か霧がかかったように言葉が消えていくような――。

「そうか。これが、自分のやってきた事の正体――?」

 マルスはサイトの解説を見て、今までやってきた事は一部の熱狂的なファンにしか伝わっていない事が分かった。

それこそ、特定ジャンルの二次創作で広まっている一種の過激派ファンと言われるような勢力――。

『君のやっている事は、言葉をどう変えたとしてもSNS炎上勢力のソレと変わりはない』

 マルスと言うアバターが代わりに喋っているだけな言葉では、やっている事は同じ――そう言いたいのだろう。

本当の意味で感情と言う物があるのであれば、メッセージの伝わり方は違うはずだから。

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