11-5

 最初の三〇秒は、アルストロメリアの方も様子を見ていたのかもしれない。単純に舐めている訳ではないだろう。

彼女が、そこまでして相手を煽るようなプレイをする訳でもないのも理由の一つだろうか。

展開したシールドは、あいね・シルフィードに拳で吹き飛ばされ、いくつかのシールドはガラスが割れるかのように粉々に砕け散った。

あくまでもCGで作られた物を破壊したに過ぎない為、砕け散ったような効果音と同時にシールドは消滅する。

(早い? まさか、向こうも動きを――)

 しかし、上手く撃墜出来たのはわずか二枚に過ぎなかった。残りのシールドはあいねの周囲を取り囲んでいた。

取り囲むだけで攻撃はしてこないものの、動きを止めると言う意味では効果的とも言えるかもしれない。

「さすが魔法少女――と言うべきかな。次の行動も――」

 アルストロメリアが指を鳴らすと、取り囲んでいるシールドの先端と周辺一部が発光した。

どうやら、あのシールドの正体はシールドビットの部類だったようだ。発行した部分はビームブレードと言うべきか?

(なるほど。そう言う事か。SNS上で言及されている方が、偽者――フェイクと言う事か)

 アルストロメリアの視線があいねの方を向いている。バトル中なので当然と言えば当然と言われがちであるが――そうではない。

この動作に関して、デンドロビウムはある疑問を持っていた。それはガーディアンが謎のプレイヤーに関する情報を集めていた時にまでさかのぼるが――。



 このバトルよりも数日前、アルストロメリアと言う人物が目撃された情報が入り始めたのは六月の下旬あたりからだ。

召喚されたタイミングがいつなのかは特定できないが、下旬にSNS上で情報があった為、そこであるとガーディアン上層部は決定する。

(秋葉原や竹ノ塚の状況を見て、焦っているのか?)

 様々なSNS上の事件、フェイクニュース、それに伴う様なパニック――そうした勢力の行動を阻止した事は草加市にも伝わっていた。

だからこそ、草加市は聖地巡礼を妨害しようとするまとめサイトの抑え込みに必死だったのかもしれない。そうでなければ、あそこまでの手段は用いないだろう。

デンドロビウムが偶然発見したのは、一階の受付付近で話していたガーディアンのスタッフらしき人物たちの会話だ。

「竹ノ塚のニュースを見たか?」

「ああ。買占めに関するニュースだろう? オイルショックなんて、令和の時代であり得ない」

「商品は複数あり過ぎて特定できないが、どう考えても転売ヤーを増やして経済転覆狙いかもしれないぞ」

「超有名アイドルが2.5次元歌い手グループに対して圧力か――と言うニュースの次は、転売目的の買い占めとは」

「それだけまとめサイトやフェイクニュースを『バズりたい』や『有名になりたい』だけで安易に拡散する民度の低い連中が――」

「草加市の方は、まとめサイトも拡散すれば逮捕、炎上案件の拡散も逮捕――そう言う時代に突入してるからな」

 二人の男性は冗談交じりに話しているが、どう考えても冗談ではすまないような話題なのは間違いない。

デンドロビウムはコンテンツ関係がメインなので、向こうの話題は部署違いで関与できない理由もある。

「そう言えば、アルストロメリアと言う名前のプロゲーマーがいたな」

「知ってる。そのアカウントで特定コンテンツの人気に関して『夢女子』勢力の暴走と語っているようだが――」

 ふと聞こえた話に対し、デンドロビウムは早足で話をした男性スタッフへ近づき――。

「今、アルストロメリアと言ったな? その人物に関して聞かせてもらおうか?」

「デンドロビウムか。確かに、お前達の追っているまとめサイトのヒントにもなるだろうからな」

 先ほどの行動はやり過ぎとデンドロビウムも考えているが、そもそも男性スタッフが煽るような発言をしていたのも悪い。

ガーディアン内でも、こうした意識の低下が団長のような裏切り者を生み出した可能性も――。



 シールドブレードでアルストロメリアはあいねを切り裂こうとも考えなくもない。コスチュームを破る事も可能だろうか。

「さすがに、そのリクエストには答えられないかな?」

 次の瞬間、シールドブレードからブレードの発光を止め、シールドを自分のもとへと戻す。

これに関してはあいねも疑問を持つが、周囲も疑問を持っていた。普通であれば攻撃するはずなのに。

【ちっ、向こうは知っていたのか】

【コスチュームブレイクは、このゲームではしないはずだが】

【しかし、一部ARゲームではアーマーブレイクもある。もしかすると――】

【あいねのコスチュームは、魔法少女ではどちらかと言うとニチアサ向きだ】

【なら、どうしてアルストロメリアは動きを止めた?】

 中継を見ていた実況勢も、アルストロメリアの動きには疑問を持つ。

ARゲームの一部では武器の威力によってはコスチュームがブレイクし、防御力がダウンするシステムがあった。

セクシーなコスチュームであれば、場合によって露出が大きくなる事もあるのだが――。

「今のは手加減した訳でも、舐めプレイと言う訳でもないよ。こっちも、ゲームシステムを全て把握している訳ではないし」

 アルストロメリアは余裕の表情を――浮かべていなかった。彼女の狙いは相手を倒すだけではない。

だからと言って、何をしていい訳でもないだろう。SNS炎上がどういう意味を持つのか、彼女は知っていたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る