9-5

 バトル後半の九〇秒、その攻防戦も見どころであった。その中でも、あいね・シルフィードの一撃が決まるまで――。

(魔法少女、魔法使いであれば遠距離メインが定石。そうなると――)

 アルストロメリアにあいねのバトルスタイルが遠距離タイプである可能性が高い――その考えがよぎった事、明らかにフラグだった。

魔法少女でも遠距離タイプは実例があるのだが、そればかりだと思い込んだアルストロメリアは――。

「これで、決めさせてもらうわ!」

 あいねの渾身を込め、更に風の刃をまとった拳、明らかな近接格闘である。

それだけではなく、近接でも格闘ゲームで例えるならば投げ技のようなコマンド投げに類するような破壊力を持った技なのは、彼女の拳の輝きを見れば明らかだろう。

即座にシールドビットでガードするのだが――数秒のタイムラグが勝負を決める。

「計算外だったという事か――」

 アルストロメリアが押さえていたのは左腕だ。骨折などはしていないが、物理ダメージがあったのは明白だろう。

ARゲームではインナースーツやアーマーを装着してのプレイが目立つ。ジャンルによっては、そうしたスーツなしのプレイも見られるが――スーツ着用には理由がある。



 このバトルを谷塚駅近くのセンターモニターで見ていた人物がいた。その人物とは、別エリアのまとめサイト勢力を鎮圧していたガングートである。

彼女は非常時以外の普段こそ私服姿なのだが、既にARゲーム用のインナースーツを着用していた。つまり、非常事態なのだろう。

 彼女も、マルス・アガートラームに合流するか悩む中でまとめサイト勢力と戦っていたと言える。

こちらに関しては遭遇戦と言うよりは、せん滅戦と言えるような状況だったのかもしれないが。

(ARスーツを着用する理由はダメージ緩和が目的とされている。しかし、実際には――)

 明らかにパワードスーツとも例えられるようなアーマーの装着義務があるようなジャンル、それがARバトルロイヤル系だ。

スーツに関しては持ち歩かなくても、フィールド内のコンテナから取り出せるし、場合によっては転送も容易だろう。

 中には移動手段としてマシンを運用し、ゲームフィールドで変形させて運用する――それこそSFヒーロー物のパワードスーツやパワードアーマーに例えられる運用も出来る。

そうしたARゲーム用のガジェットでも数万円で購入できる位には、草加市が支援してくれるのだ。それ程にARゲームのイースポーツ化を推進したいのかもしれない。

(コンテンツ市場に冷ややかな環境になりつつあるのも――今回の事件のきっかけである可能性があるのか)

 ガングートは自分が呼ばれた理由を何となく察している。蒼流の騎士が首謀者でなくても、自分が呼ばれる可能性は高いのだ。

それ程に自分の作品が扱っている題材が、草加市にとっても他の都道府県にとっても影響力を無視できないのかもしれない。

(真実は、直接聞きだすしかない)

 ガングートとしても、蒼流の騎士に改めて聞く必要がある事があった。

マルスの事例はSNS上で言及されているのだが、その内容は――事実を語っているのか、それさえも疑わしい。

まとめサイト等に依存し、それ以外の情報を信じなくなったような民度の低さも問題視されるだろうが――楽して真実を見つけ出そうとするような、情報を探す姿勢にも問題はあるのだろう。

 楽して簡単に得られるような物はない。SNSは嘘を嘘と見破れるような知識がなければ――悲劇を繰り返すだけなのだ。

それは、何度も言及されているし、WEB作品でも語られているのである。

情報が事実であっても、視聴率やバズる、目立たせたい等の欲望が影響して脚色された結果が、SNS炎上や情報一つで経済活動を崩壊させる事だって出来てしまう。

「やはり、この世界は――」

 自分の世界はメリーバッドエンドと言えるような結末を迎えた。

まとめサイト勢力を壊滅させたのだが、それでも個別のSNS炎上は繰り返され、今も続いている。

長期連載シリーズではないのに、同じ事を何度もテーマとして繰り返していくような――メッセージを伝えられていないからこそ、そのテーマを再び扱っているのだ。

 ガングートとしては、SNS炎上に警鐘を鳴らすつもりでまとめサイト勢力と戦っていた。そのはずが、作品の反応を含めて――何も変わっていなかったのである。

自分の世界がその後どうなったのかは、それこそ神の視点等でもない限りは不可能だが、民度の低下や炎上勢力の過激化を考えると、終わっていないと言うのが正しいだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る