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「あいね・シルフィード、この私がバトルを終わらせる!」

 乱入してきた相手、それはあいね・シルフィード、七つの鍵の持ち主でもある。

彼女が装着した魔法少女のコスチュームを見て、ようやくアルストロメリアは別の世界へ転移したと把握した。

最初は、どう考えても自分のいた世界と変わりないような光景に見えていた物が、あいねの出現で瞬時に切り替わった印象である。

「人が増えた印象だな」

「にわかが増えても困る」

「にわかのようななんちゃってファンは、このジャンルでは来ないよ」

「そこまでの有名人が、ここにいる訳でもない。ジャンルは違うが、それこそビスマルクのランクはないと――」

「ビスマルクはリズムゲームだろう。それこそ高望みだ」

「そう言う事だよ。このジャンルで人が増え始めたら、それこそプレイするのに待ち時間が増える」

 あいねとアルストロメリアのバトルが開始した際には、ライブ中継の入場者数が軽く百人を突破していた。

ARバトルロイヤルでは数百人入るとすればプロゲーマー同士のバトルや公式大会レベル位で、そこまで混雑はしない。

それが一瞬で塗り替えられた瞬間なのは間違いないだろう。それだけ、アルストロメリアには可能性があった可能性が高い。

ゲーセンの方も次第に混雑が始まり、入場制限はかからなかったが下手をすればかけられる寸前にまで人が増え始めた。

ARゲームの専用フィールドは、リズムゲームの専用筺体よりも場所を取る広さを誇る。普通のゲーセンでは、ARゲームを一種類を置くのにも一苦労だろう。

それ位に設置スペースを取ってしまう為、いくらARゲームが草加市で人気があるとしても実際の設置を断念するゲーセンもあるのだ。

「どうして、ゲーセンはARゲームを積極的に設置しないのか? 設置費用は草加市が負担してくれるのでは?」

「確かに草加市が負担するが、負担するのは筺体価格の半額までと聞く」

「半額でも相当な金額になるのでは? どうして、ゲーセンは積極的に動かない」

「レンタルと言う形がARゲームではメインとなるが、それでも月に百万円はかかる」

「百万? 1プレイ百円では赤字確実では――」

「だからさ。大手のゲーセンでないと、ARゲームで黒字は見込めない。しかも、ジャンルを間違えた時の打撃は――」

 ギャラリーが話をしている間にも、あいねとアルストロメリアのバトルは行われている。

両者ともに互角――ではなく、あいねの方が場数的に有利なのかもしれない。

アルストロメリアがプロゲーマーに迫る実力を持っていたとしても、場数を踏んでいない彼女には不利である。

「ARゲームでは、場数を踏んだ量が全てと言える。特にVRゲームとはプレイ感覚すら違ってくるからな」

 ギャラリーの一人は、明らかに自分も過去にVRゲームをプレイし、その世界ではプロと言われていたような発言をする。

それに対し、周囲がツッコミをする事はない。下手に話の腰を折れば――そこからトラブルだってあるかもしれないと思ったからだろう。

ARゲーム業界内では、こうした聞き上手などで上手く流していくギャラリーも貴重とされているらしい。


 

 制限時間は三分、既に半分は使っているだろうか。ゲージとしてはアルストロメリアの方があいねよりも数割下だ。

相方の問題も否定できないが、ここのゲーセンは二対二とは違う一対一のソロバトルも設定されている。

しかも、あいねが乱入したのもソロ設定だからというのもあるかもしれなかった。そうでなければ、好きで乱入しない可能性も高いだろう。

アルストロメリアも相方に迷惑をかけるのもアレなので、ソロ設定を選んだらしい。こちらは場数な意味かもしれないが。

「残り九〇秒、どう決めるか」

 アルストロメリアは使用している銃火器もチャージ時間もあってか、連発が危険だと感じた。

明らかにこの世界に合わせてバランス調整がされていると思う瞬間だろう。それは向こうも同じである。

あいねの使用する近接魔法、これもバランス調整はされているかもしれない。それなのに――。

「これで、決めさせてもらうわ!」

 あいねの渾身を込め、更に風の刃をまとった拳、その一撃がどのようなものかは想像に難くない。

シールドビットによるガードがあったのに――ゲージの削り具合が尋常ではなかったのだ。

これには、さすがのアルストロメリアも『計算外』とつぶやくしかない。

ゲームバランスというメタを含む戦力を考慮していなかった、彼女の敗北と言えるだろう。

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