6-4

 フィールドの広さは数十メートル四方といった具合で、ナイトブレイカーが周囲を見回してあっさりと把握できる位の広さだった。

実際問題、彼のいた世界におけるパルクール・サバイバーのフィールドと比べると、ジャンル違いも考慮しても桁が違うのである。

(建造物は実際のビル二階分程度、ジャンプでひとっ飛び可能な程度か)

 それ以外にも障害物がないかARバイザーのマップで確認すると、工場のようなオブジェクトを直線距離に発見する。

他に目新しいようなオブジェクトはなく、それを確認して何とかなると考えているようだ。

(隣にいるのが――)

 ナイトブレイカーの相方はコスト2であり、下手に自分が落とされると致命的なのかが分かる。

しかし、プレイヤーからチャットメッセージのような物が飛んでこなかった。もしかするとNPCかもしれない。

実際にはチャットメッセージの飛ばし方が分からないと言うプレイヤーだったオチであり、バイザーにもプレイヤーである事を示すメッセージが表示されていた。

「相手は――そう言う事か」

 それ以上に、相手は両方ともコスト3で分かりやすい。それだけ強いという証拠でもあるのだが。

「勝てるのか? あの装備で」

「似たような物を見た事がある」

「知っているのか?」

「確か、ロケテストを行っていたパルクール・サバイバーと言うゲームだ」

「さっき、ギャラリーが叫んでいたアレは――」

「そう言う事だろうな」

 周囲のギャラリーも、ナイトブレイカーが何者かを把握するのだが、それでも強さは未知数だ。

逆に相手側のコスト3のプレイヤーが強いという指摘さえある。しかし、このARゲームは戦力やコストと言った要素だけで決まる訳ではない。

(明らかに相手の方が不利な気配がする。未知数のプレイヤーと戦う意味でも)

 実際、それを証明したあいね・シルフィードのバトルを見ていたギャラリーは思う。

ARバトルロイヤルで実際に使われる武装はプレイヤーが選択する物がメインだが、持ち込みもできる。

ナイトブレイカーの装備も持ち込み扱いなので、そう言う事なのだろう。

「とりあえず、お手並み拝見かな」

 モニターに表示されたナイトブレイカーを見て、興味を持ったのはビスマルクである。

本来であれば、プレイしようとしたのだが満席扱いでは仕方がない。しばらくは他のプレイヤーのプレイを見てゲーム内容を把握しようと言うのかもしれない。



 バトル開始一〇秒、相手側が遠距離武器で攻撃を仕掛けてきた。

ナイトブレイカーのバイザーにも警告メッセージが表示され、直撃すれば危険だと言うのは分かる。

飛んできたのは、何と黄色の光線――見ただけでナイトブレイカーも理解出来るビーム兵器だった。

「まさか避けられるとは!」

 明らかにターゲットは相手のコスト2狙いだったビーム攻撃は、ターゲットミスでナイトブレイカーに向けられていたのである。

もしかすると連携が取れていない証拠だろうか? その詳細を確認する間にも相手プレイヤーがナイトブレイカーに迫ってきた。

「直撃コースだったのに」

 もう一人の接近しているプレイヤーは、今のビーム攻撃を利用して奇襲を仕掛けるつもりだったらしい。

ビームは明らかに避けられており、相手の位置が向こうに筒抜けになっていたのだ。

コスト2のプレイヤーも、独自の判断でコスト3のプレイヤーに向かって攻撃を始める。相手が射撃メインなので、自分ならば倒せるという判断かもしれない。

相方の武器を見たナイトブレイカーは、別の意味でも驚くしかなかった。使用している武器に違いはあるが、近距離メインなのである。

(向こうが格闘メインならば――)

 素手格闘という装備武器なしというプレイヤーに驚くのだが、逆にそれがコストを下げていたのかもしれない。

格闘武器に加えて素手格闘も出来るのであれば、バランス的にコスト3へ振り分けられてもおかしくはないだろう。

「こちらは、これで!」

 早速ナイトブレイカーは大型のパワードアーマーを呼び出し、それを即座に装着し、先ほどのビームを撃ってきたプレイヤーに向かう。

そのスピードは明らかにスピード系のユニットとは比べ物にならない速さだが、これが特殊動作扱いであれば――。

全身の透明だったアーマーのライン部分が赤く輝くと、ナイトブレイカーは左腕の大型アームでプレイヤーを殴り飛ばす。

大きく飛ばされる事はなかったが、小刻みに建物へ激突しながら飛ばされていき、最終的にはライフの九割近くは飛ばされる事に。

相手の方も、この光景を見て隙が出来たのかは不明だが、コスト2の格闘術コンボで撃破されてしまう。

どうやら、コスト3でも防御力が低い相手と高い相手で差が出来たようだ。下手に防御力の低い方がナイトブレイカーと戦っていたら――。

「ワンパンかよ――」

 防御力で助けられたからだろうが、相手プレイヤーはナイトブレイカーの攻撃力に恐怖する。

これによって、勝負の方はほぼ決まったも同然になっていた。しかし、それでも退けない理由はあるだろう。

彼はナイトブレイカーに残りライフ一割弱で挑むしかなかったのである。

「あれがナイトブレイカーと言うのか」

「確かにパルクール・サバイバーの方でも、披露していた技だが――」

「原作通りに再現されると、さすがにバランスブレイカーなのでは?」

 周囲のギャラリーも。相手プレイヤーが吹き飛ばされる光景を見て冷や汗が出る。

リアクションは人それぞれだが、その強さは明らかにコスト3でも上位に入るような強さ位に値する――という声も出たほどだ。

(道理で。あの技は本編でも使っていたレッドブースター、いわゆるブーストね)

 ビスマルクは、ナイトブレイカーが使った攻撃手段が何なのか把握していた。

仕様回数に制限はあるが、能力を極限まで引き上げて加速をするレッドブースターは、ナイトブレイカーの特殊スキルと言ってもいい。

ただし、劇中ではアーマーの負荷もかかると言う事で1レースにつき三回位までの制限があったはずだ。

同じ仕様でARバトルロイヤルでも使えたら、それこそバランスブレイカーと突っ込まれかねない。それ位の威力は、ビスマルクも感じている。


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