1-3

 マルスがあの世界から更に飛ばされた場所、それは目の前にいる蒼流の騎士によると『日本』だと言う。

それに加えて、自分が知らない別の日本だとも説明された。一体、目の前の騎士は何を告げようと言うのか?

しかし、目の前の騎士が言う事にも一理あるのは確かだ。実際に周囲の光景は、マルスのいた日本とは異なる要素もある。

『君は選ばれた人間だ。この世界を救うための勇者として』

(あの騎士は、まさか共和国の――?)

 蒼流の騎士の発言、それは共和国に飛ばされた際にも聞かされたテンプレな台詞にも似ている。

異世界転移物ではお約束の『異世界を救う勇者に選ばれた』パターンと言えるだろうか。

『しかし、それは他の人物も同じ事。そこで、この鍵を渡そう』

 目の前にいる蒼流の騎士、彼が呼びだした光にも似たような物体を呼びだした。

厳密には生み出したと言うのが適切かもしれないし、異世界転移物のパターンとして『能力を与える』ポジションの人物かもしれない。

そして、彼が生み出した球体はアガートラームと融合、さらなる輝きを放ったのである。

『その鍵が七つ揃えば、願いをかなえる事が出来る。あの浮遊大陸にも行く事が出来るかもしれない』

(まさか、こちらの考えを読んでいるのか?)

 マルスは顔には出さないが、蒼流の騎士の発言を聞いて若干動揺していた。

異世界転移物のお約束と言うには、少し気になる箇所もあるだろう。しかし、それに関して質問をしたとして答えてくれるのか?

『同じ鍵を持つ者は、その鍵が示してくれるだろう。まずは、探してみるといいだろう。鍵を持つ、他世界の英雄を』

 その言葉を最後に、蒼流の騎士は姿を消していた。厳密にはあの姿自体、ホログラムの類と言う可能性が高い。

何か思いだしそうな流れでもあったが、肝心な個所は思い出せないのである。



 蒼流の騎士が姿を消した後、マルスは他の鍵を持つ他世界の勇者を探す事になった。

しかし、行くあても全くない事もあって無策に町周辺を走り回っている。その距離、一キロメートル以上。

異世界から飛ばされる直前も含め、体力の消費は非常に激しい物であり――マルス自身も限界を超えていた。

近くの公園にあるベンチ付近にたどり着いた時には、座ったと同時に意識を失ってる。むしろ、眠ったと言うべきか?

(あのプレイヤー、どういう事だ?)

(ファンタジー系アバターか? あのデザインは見た事がない)

(何かのコラボだろう。そこを気にする必要はないのでは)

 マルスを遠くから見ていたのは、ゲーマーだった。しかも、あからさまにアレな三人組。かませ犬にも見えるだろうか。

一人が身長二メートルはあると思われる位の巨体である。後は――お察しな二人かもしれない。

(レベル表示がない)

(バグなのではないか。それとも、こちらのゲームとは違う作品とか)

(違うゲームなら、こちらから攻撃すればアカウント凍結もあり得るだろう)

 知的と思われるメガネの男性は、迂闊に攻撃を仕掛けるのは危険と指摘する。

しかし、大男はレベル表示がないのを理由に倒しても問題ないと思っているようだ。

(また、マナーが出来ていないゲーマーか)

 三人組を数メートル以上先から見ていたのは、パーカーを深く被る女性だ。

彼女は一連のやり取りを見て『また炎上案件か』と呆れている。それ程にスルーしようかとも考えていた。

しかし、狙っている人物の装備を見て、その立場を変えようとしている。

(あの装備――なるほど)

 彼女の口元が少し変化したようにも見えた。おそらく、探していた人物――そう考えたのだろう。

まずはゲーマーの動向を見て、その後に動いた方が怪しまれないと考え、別の怪しまれないような場所まで移動する事にした。



 数分が経過し、目を覚ましたマルスだったが――周囲の光景に対して不思議な光景と感じる。

(この光景は――?)

 明らかに周囲をフィールドによって囲まれ、自分が拘束されているかのような状態だ。

逃げ場は全くない、と言うべきか? そして、ベンチ周辺を囲むように三人組が近づいているのも分かる。

「おまえを倒せば、こっちも経験値が上がると言う物だ!」

 大男がマルスに襲いかかるのだが、使ってくる武器には見覚えがあった。

明らかにファンタジーとは程遠い、SFテイストなビームライフルである。あのビームに当たれば致命傷は避けられない。

「早速で悪いが、お前には倒されてもらう!」

 メガネの人物は自分が使っていたのとは異なるようなビームランスを構えていた。

持っている武器を考えると、彼らはSF系のFPSゲームのプレイヤーだろうか?

(どうして、目の前の人間がゲーマーだと分かる? それに、武器も――)

 何故かファンタジーな世界だった前の世界とは違い、この世界の武器がある程度以上に分かる。

もしかしなくても、目の前の人物は帝国の兵士ではない。あれはARゲームのプレイヤーであり、ゲーマーだ。

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