第6話

 次の日、僕は学校に登校し授業を終えた。そして、亮介に部室と伝えられた教室へ足を運ぶ。


 昨日部活を作ると伝えられたときは冗談だと思っていたが、まさか本当に部活ができるとは。


 何が起こるのか分からない不安を抱えながら部室の扉を開く。


「よう優希、遅かったじゃないか」


 亮介の陽気な声が飛んでくる。部室には平と足利の二人だけのようだ。


「お前らその場のノリでこんな部活作って、何をするつもりなんだ?」


 キレ気味に僕が問うと、平は、


「ごめん、考えてなかったわ」


 と返してきた。なんて正直なやつなんだこいつは。


「ま、まあ優希のことは気の毒に思うが、ゲームでもしながらゆっくり男に戻るための手がかりを探していこうぜ」


「さんせー」


 どうやら亮介の狙いはゲームだったらしい。ついでに千歳ものっかってきた。どうしよう、僕ちょっとキレそう。


 亮介はその容姿、抜群の運動神経、成績優秀なことから友だちが多く、いつも誰かにあそびに誘われている。


 しかし、じつは亮介はかなりのオタクだ。その事実は親友である僕しか知らない。


 きっと部活を作った理由の一つにオタ活に励む時間が欲しかったということがあるだろう。


「ゲームって言ったって、三人で何するんだよ?」


「うーん、モノポリーはどうだ?」


 言うなり亮介はモノポリーのボードを机に広げ始める。こんなのどこから持ってきたんだ。


「おい、僕はやるなんて言ってないぞ」


「ボードゲームなんて楽しそうじゃん、やろーよやろーよ」


 乗り気じゃない僕を尻目に千歳は完全にやる気になっている。


 ちなみにモノポリーとはアメリカ生まれのボードゲームのことだ。


 ふつうのすごろくとは違い、ゴールはなく盤上をぐるぐると回るゲームになっている。


 モノポリーという名前が示すように、マスである土地を買い独占し相手を破産させた人間の勝利となる。


 お金をためていくボードゲームになるわけだが、人生ゲームなどと違い交渉を駆使し頭を使い勝たなければならない奥の深いゲームだ。


「なんでお前はそう運がいいんだよ!」


 結局僕も夢中になってしまった。みんながボードを3週ほどしたころ、亮介は自力でオレンジグループを独占していた。オレンジグループはモノポリーにおいてかなり強いエリアなのだ。


「まあ、運も実力の内さ」


 亮介が自慢げにそう言ってくる。


 僕と千歳は仕方がないのでコツコツと土地を貯める。僕が水色を2つ、千歳が赤を2つ手に入れたので、交渉で僕は水色、千歳は赤を独占する。


 他の土地は各プレイヤーに程よく分散し、手を付けられることがなかった。


 水色の土地はアップグレードし収益を増やす費用が安いので、僕は早めにアップグレードを済ませる。


 千歳が持っている赤はアップグレード費用が少し高く、経営に難航する。


 亮介はオレンジの土地をコツコツと強化していく。


 序盤動き出しの早かった僕がある程度亮介と千歳に打撃を与えたものの、結局強い土地を所有することのできた亮介の勝ちとなった。


「どうだ!これがゲーマーの実力だ!」


「いや、あの引きの良さが無けりゃ僕が勝ってたし」


「FPSなら私負けないし」


 ゲームが終わるとそれぞれが口々に言い訳をしたり自慢したりしている。


 はー、楽しかった…ってあれ?なんか大事なことを忘れてるような…


 そうだ!そもそも僕の体のことを話し合うってことだったのに一切僕の体のこと話してないぞ。


 もしかして僕このままこの体に慣れていっちゃうのかな?


 そんな不安を感じながら僕は帰宅するのだった。

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