第436話

 扉を叩く音で私は目覚めた。


「シャレ様、起きていますでしょうか?」


 どうやら、ニネットが私の事を起こしに来てくれた様だ。


「あぁ、起きている。準備してすぐに向かうから先に行っててくれ」

「承知致しました」


 アトス達が村を出て二週間程経過した。あの、バンゴとか言う人間族のクソ野郎にやられた怪我は大分良くなり戦闘は、まだ出来ないが日常生活を行うには問題無い程度には回復した。


「残っちゃったか……」


 着替えの為、服を脱ぎバンゴに付けられた傷を見つめる。

 後遺症などは残らない様だが、傷は残るだろうと、医療班に言われていた。


「まぁ、構わないがな」


 あの残酷な日から女である事を捨てた私に取って、身体に傷が残る事は何とも思わない。


「しかし、アイツらは煩そうだな……」


 私自身はどうでも良いと思っているのだが、トラクとニネットは私の傷を凄く気にしている。

 こんな大きな傷が残ったなんて知ったら、また煩い事になるな。


「よし、この事は黙ってよう」


 そう、決意して私は素早く着替えを終えて、外に出る。

 復興作業は獣人族が同盟に参加してくれた事により、物凄いスピードで進んでいる状態だ。


「シャレちゃん、遅いよ!」

「すまんすまん」


 外に出るとトラクとニネットが待っていた様で、二人して私に早く来るように催促して来る。


「ニネットよ、今日の予定は?」

「今から、各代表らを集めて会議になります。会議では今後の事を話し合う予定ですね」

「うわ……難しそうだね」


 ニネットの話を聞いて、めんどくさそうな表情を浮かべるトラクに、私はついつい笑ってしまう。


「はは、確かにトラクの言う通り面倒そうだ──だが、そうも言ってられんからな」

「その通りでございます」

「わ、私も冗談で言っただけだからね……?」


 ニネットの冷たい声色にビビったトラクは直ぐに謝罪して、三人で会議する場所に向かう。


 会議場として設定した会議室には既に殆どの者が揃っていた。


「お? シャレよもう良いのか?」

「あぁ、お陰様でな。キルの方も大分良さそうだな」

「がはは、ワシはこの通りピンピンしておる!」


 キルの怪我も私同様に決して軽い怪我ではなかった筈だが、流石にドワーフ族の長だと言っておこう。


 そんな風にキルと話していると、次は獣人族のネークに声をかけられた。


「シャレさん、お体はもう?」

「あぁ、来て早々心配を掛けた上に復興作業まで手伝って貰って凄い助かっている」

「気にしないでください」


 ネークの言葉にホッと胸を撫で下ろす。


「では、シャレも来た事だし、会議でも始めるかのう」


 キルの言葉に、催促される様に、私達は席に座る。


 参加人数は本当に必要最低限であり、我々エルフ族としては、私やトラク、ニネット、そして既にエルフ族の席に座っているエルトンだ。


 そして、ドワーフ族はキルと複数の部下達。

 最後に獣人族の長であるネークと、その部下であるガルルとググガが居た。


 この三種族は人間族を除けば、一番個体数が多い種族達でもある。


 三つの最大勢力が集まった事により、部下の中では人間族に勝てると言う噂がココ最近流れ始めた。


 実際の所は、我々三種族が力を合わせても戦力的には人間族に勝てる見込みが殆ど無い──しかし敢えて言うのも違う感じがする。


 そんな事を考えていると会議室の扉が勢い良く開け放たれた。


「よろしいでしょうかッ!」


 一人のエルフが慌てた様子で入ってきた。


「騒々しい、どうしたのだ?」


 エルトンが代表して声を掛ける。


「私も、詳しい事は分からないのですが、何やらマーズとかと言う者の使いが来ております──それも人間族が」


 人間族という言葉に皆が過剰に反応したが、私とキルは特に慌てる事は無かった。


 マーズだと……? また、何かあったのか?


 私はキルと顔を合わせて頷く。


「人間族の遣いは、どこにいる?」

「今、門の前で待たせていますが、捕縛しますか?」

「いや、問題無い──少し聞きたい事がある」


 こうして、会議を一旦中断し、午後に再開するとして、解散させる。


「マーズの奴……何かあったのか?」

「いや、分からない」


 キルと一緒に門に向かうと、数人の人間族が門の前で待機していた。


 人間族と言うと事もあり、数十人のエルフ達が囲む様にして見張っていた。


「皆んな、ご苦労。後は私が話すから持ち場に戻ってくれて構わない」

「それは、危険です!」


 私の心配を、してくれる部下達の気持ちを有り難く思い、問題無いと伝えて持ち場について貰った。


「お前達がマーズの遣いで来た者達か?」

「はい。マーズさんから、頼まれてこちらの手紙をアトス殿に渡す様に言われております──お手数ですがアトス殿に合わせて頂けないでしょうか?」

「申し訳無い。アトス達は、今出払っている為、私が預かり後程渡そう」

「……」


 私の事を上から下まで視認するマーズの部下達。

 その視認は私個人に欲情したものでは無く、信用たる者なのかを見極めようとしている視線であった。


 ふふ、マーズの奴……良い部下を持っている。


「申し訳無いですが、貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」

「あぁ。私はエルフ族のシャレだ」


 私が名前を伝えると、途端に人間族達は表情を緩めた。


「シャレ殿でしたか、マーズさんから話は聞いています。貴方であればお預けしても問題無いとの事でしたのでコチラを──」


 そう言って、自身の懐から手紙を取り出し渡してくれる。


「これは?」

「内容は分かりません──ただし、相当重要な事が書かれている事は確かなので、安全な所でお読み下さい」


 渡された手紙は厳重に封じられていた。


「あぁ、そうさせて貰う」

「では、我々は帰ります」

「もうか?」

「はい。我々は内緒で抜け出して来たので、バレない内に帰りたいと思います」

「そうか、手紙ありがとう。マーズにはよろしく言っといて来れ」

「分かりました」


 こうして、持ち運べやる程度の食料と水を渡す。そしてマーズの部下達は来た道を戻り人間族の住処に帰っていった。


「さて、午後会議の議題が増えそうだな……」


 私は、渡された手紙を読みながら無意識に呟いたのであった……

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