第433話

 漆黒のモンスターと傷だらけの中型との戦闘を終えた俺達はあの後、オークの村に帰り、暫く様子見する事にした。


 なんとなくだが、あの二体のモンスター達は、もう此処には戻って来ないと思う。


 そして、オークの村に戻ってから一週間程様子を見たがモンスターの気配は一度も感じる事が無かった為、俺達は再び旅に出る事をディング達に伝え、明日はとうとう出発する日である。


「アトスよ……本当に明日この村を立つのか?」

「あぁ、他にも行かないいけない場所があるからな」

「そうか……」

「はは、そんなに心配するな。一週間様子見して、気配を一切感じられなかったんだから、もう此処には居ないし戻って来る事も無いだろう」


 どうやら、ディングは俺達が旅出た後に再びモンスター達が戻って来るのでは無いかと不安に思っている様だ。


「ほっほっほ。もしまたモンスターが現れたら、貴方が囮りになって全力で逃げなさい。そうすれば時間は稼げるでしょう」


 最終的にはリガスの考えは良い案だろう。

 村長としてディングがモンスタを惹きつけている間に村人を安全な場所に移動させるのがベストなだな。


「アトスよ……色々助かった」

「はは、本当の別れは明日の朝だけどな」

「明日は明日で改めて御礼するつもりだが、今回は助かった」

「いいって! それよりも、戦いについてだが……どうだ?」


 俺は今後人間族との戦争に参加してくれるかを聞こうと思い口を開けると、それを手で制すディング。


「アトスよ、お前達に協力しよう──しかしエルフ共の為じゃ無く、オーグ族とお前の為に俺達は戦うぜ?」


 ニヤリと笑うディングに俺も笑い返す。


「あぁ、それで良い。自分達の為に戦って、ピンチになったら逃げろ」

「はは、そうさせて貰おう。しかし、あのクソ野郎だけは許せんからな、必ず決着を着けてやる」


 クソ野郎とは、ゴブリン族のグダの事だろう。


「それで、俺達はどこに集まればいい?」

「それは後で追って連絡が来ると思うが、恐らく一年以内には戦いが始まるから、それまで出来る限りの事を用意してくれ」

「そうか……一年以内だな。分かった」


 一年という期間は、長いようで短い。これから、戦いの準備にかなりの時間が掛かるだろう。


 それこそ、人員確保や戦場の下調べ、作戦会議、物資の確保など、数えたらキリが無いだろう。


 まぁ、俺は言われた事をするだけだから、そこまで大変でも無いけどな!

 大きな事から細かい事まで、シャレとキルが全て調整しており、俺達は指示に従っているだけだ。


 それから、俺達は明日の朝も早いという事で、眠りに付く。



 そして、気が付けば、既に空は明るくなっておりチルが起こしに来る時間になっていたようだ。


「アトス様、おはようございます。朝です」

「ん……チル、おはよう」

「はい、おはようございます」

「もう、皆んな起きているのか?」

「姉さん以外はディングも含めて全員起きています」

「分かった。準備して直ぐ行くよ」


 俺は寝具から起き上がると、着替えを済ませて、部屋を出る。


 既にリガスの手によって朝ごはんの準備が、整っており皆んなで食べてから、ディング宅を出る事にした。


 村を歩いて、出口に向かっていると、ロピが笑い出す。


「あはは、ここで私達スキル儀式したんだよねー」

「姉さん、懐かしいね」

「うん! ここで、私のチルちゃんがBランクを手に入れたのを私は今でも鮮明に思い出せるよー」


 ロピは懐かしむ様にして、目を瞑る。


「ほっほっほ。私にとってはあそこが懐かしいですな。生憎と寝心地はよくありませんでしたが」

「……あの時はすまん」


 リガスの顔の先には、以前リガスが閉じ込められていた建物があった。

 そして、リガスの言葉にディングは深く頭を下げて謝罪した。


「ほっほっほ。気にしないでいいですぞ? 捕まったお陰でチル様に出会う事が出来たので、今ではいい思い出ですな」

「私も、ここでリガスと出会えてよかったよ?」

「ふむ。これ程嬉しい言葉はありませんな!」


 リガスは満遍な笑みを浮かべて、とても嬉しそうだ。


 それから俺達はゆっくりと村の出口に向かう。

 出口では、村に居るオーク達全員が見送りに来てくれた様だ。


「あはは、皆んないるねー」

「姉さん、嬉しいね」

「うん!」


 オーク達に今回の事を次々とお礼を言われる。


「アトスよ改めて、今回のことは助かった」

「はは、気にするな。倒したわけでも無いしな!」

「人間族との戦いまでには、他のオーク達を集めて、少しでも戦力を補強しとくから任せといてくれ」

「あぁ頼む」

「それじゃ、皆んなバイバイー!」


 そして、俺達はオーク達に見送られながら、次の目的地に向かうのであった……

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