第432話

「皆んな、グンドウとヘラデスさんのお陰でここ最近で起きた出来事は理解したと思う──最後にこれからの事について話していこうと思う」


 これからの事か……重大な事であればアトスさん達に伝えないと。


「恐らく、次で決着を付けようと思っている」


 決着……?


「いつまでも、小競り合いなんてしてても、現状が変わらない事が分かった──なので次の戦いで人間族の全戦力を持って劣等種共を軒並み奴隷にしていくつもりだ」


 カール王の言葉に、全員が驚く。それはカール王の少し後ろに居るグンドウも同様で、目を見開きながら、カール王を見ていた。


「で、ですがカール王よ……流石に一気に決着を付けるのは些か危険なのでは……?」


 カール王の部下の一人が進言する。


「何が危険だと言うんだ? 我々以上の戦力を持っている種族は居ない──仮に俺達の次に人口が多い、獣人族、エルフ族、ドワーフ族が組んだとしても、我々の戦力の半分くらいだろ?」

「そ、それは……そうなのですが……」

「なら、何を心配しているのだ? 人数が我々の半分であればどちらが有利なんて子供でも分かるぞ?」


 カール王の言葉は正しく、恐らく他種族が結託したとしても、人間族の全兵力と比べたら人数の半分くらいしかならないだろう。


 個人の力量であれば人間族は最弱と言ってもいいだろう。だが、集団戦と言う事であれば、話は別だ。

 人間族の連携は他の種族と比べ物にならない程練度が高い。

 唯一、同じくらいのチームワークを発揮する事が出来るのはゴブリン族くらいだろうが、ゴブリン族は、そこまで種族全体の人数が多く無い為、大規模というよりかは、中規模の人数での戦いに優れているだろう。


「いいかッ! 俺達は強い。確かに身体能力的には勝てないかもしれないが、奴らは力を合わす事など全然意識していない昔ながらの戦いしか出来ない種族だ! そんな者達に俺達が負けると思うかい?」


 周りに問い掛ける様な言葉に一同も応える。


「カール王の言う通りでは無いか? 我々が劣等種共に負ける訳が無い!」

「確かにそうだ! カール王の言う事は正しい!」


 カール王の取り巻きの様な地位の高い者達が次々と口を揃えてカール王の考えに賛同する。

 そんな様子を見ていた周りの者達も集団心理というのか、次々とカール王の意見に賛成していく。


 ……まさか、この為にラシェン王の取り巻きを一斉に解雇して、自分の取り巻きで固めたのか……?


 気が付いたら、殆どの者たちがカール王の意見に賛同していた。


「カール王よ、それで戦いはいつ頃とお考えなのでしょう?」


 部下の質問に一度目を瞑り考え込む。


「そうだね……」


 カール王が、黙り込む事で周囲の者達も自然と静まり返る。


「……よし」


 少しの間考えていたカール王が目を見開き口を開く。


「一年後だッ! 一年後に、俺達人間族は全兵力を持って劣等種共を屈服させ、奴隷にするぞ!!」


 その呼びかけに、堂内が音で揺れる程の返答が周囲から次々と起きる。


「主に狙う種族は、エルフ族、獣人族、ドワーフ族だ」


 カールの宣言で、周りは興奮状態になっているのか、早く戦いたいなどと口にする者ばかりであった。


「くっくっく。カール王よ、些か遅く感じるが、その作戦は気に入ったぞ?」

「ははは、ヘラデスさんに気に入って貰って俺も嬉しいですよ」

「これで、やっと雷弾との再戦の目処が立ったという事だな」


 今や人間族の二強と呼ばれる一人のヘラデスは愉快そうに笑っている。

 そして、二強のもう一人であるグンドウはカール王を睨み付けるだけで、特に嬉しそうでも、なんでもなかった……


 不味いな……これは、早くアトスさん達に伝えないと……


 怪しまれない様に表情を変えない様に務めていたが、内心は心臓がバクバクである。


「うぉーー!! マーズよ、私はやるぞ!! 次こそは武功を上げて必ずやヘラデス殿と結婚するんだ!!」


 リンクスも気合が入ったのか、興奮状態の様だ。


「皆んなには、もう一つ報告がある」


 周りの士気が上がったのを確認したカール王は満足そうな表情で更に続ける。


「詳細は省くが、遂に人間族で研究していた事が実践にも使用出来るかもしれない段階に進んできた」

「研究とはなんでしょうか?」

「はは、モンスターの奴隷化だ」


 ──!? モンスターの奴隷化だと?!


 私はカール王の言葉に驚く。


「これまで、秘密裏に行われていた研究なんだが、モンスターの奴隷化に最近成功したと報告が入った──その為一年後の戦いまでには、今よりモンスターを、増やせそうだからより一層俺達人間族の勝利は確かなものになるだろう!」

「「「「「「「うおーー!!!」」」」」」」


 カール王の発表に、もう興奮が収まらない様子で、あちこちで騒いでいる。


 ……アトスさん、かなり不味い事になっていますよ……


 私は、聞こえる筈も無いが、この状況下に、ついついエルフ族に居るだろうアトスさんに話し掛けてしまった。


 とにかく、早くこの事を伝えて、何か対策を考えて貰わないと、本当に全員が奴隷にされてしまう……

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