第400話

 大量の人間族がジャングル内を歩いていた。

 歩いている人間族は様々で、俯いている者や怒っている者、又は楽しそうに笑っている者まで居る。


 その中の集団で話し続ける者が居た……


「マーズよ、今回は活躍出来なかったが、次こそは私が大活躍する時だぞ!」

「えぇ、リンクス様であれば例え、誰であっても倒す事が出来るでしょう」

「ははは、本当の事だが、あまり褒めすぎるな」


 リンクスの会話に疲れ切った表情を見せるマーズであったが、そんな様子を考慮してくれる訳もなくリンクスはひたすらにマーズに向かって話し続けていた。


 ──戦場に行った者達から聞いた、謎の光る円は恐らくアトスさんのスキルだろう……


 マーズはとうとうリンクスの話を聞き流し、今回の戦いの考察を始めた。


 ──最初は人間族側の圧勝に終わると思った戦いも、謎の光が現れてから戦況が大きく変わったと報告もあったし……貴方って人はやはり凄い


 マーズはココには居ないアトスに向かって心の中で称賛を送る。


 ──上手い具合に、ここから抜け出してアトスさん達と合流したかったが、タイミング的に持ち場を離れられなかったのが痛かったな。


 そして、マーズはリンクスの話を延々と聞き流し、人間族の住処に向かって移動し続ける。


 マーズは、今回の戦いの結果を予想していなかった。

 共に戦った、アトス、ロピ、チル、リガスがエルフ側に居たとしても、人数の差で、人間族が勝利を納めると見ていた。


 しかし結果は真逆になった。


「でも、ここから先は全く読めませんね──いや、それでもやはりアトスさん達には厳しい戦いになりますね……」


 恐らく、次は人間族も全勢力を導入して戦いに挑むだろう……そうすると、仮に他種族同士が手を組んでも人数の差は覆らないだろう。


「さて、一体どうなる事やら……」


 マーズが今後の戦況を心配している頃に、前方で全兵士達を率いているヘラデスが未だに上機嫌であった。


「おい、最短で次に私が雷弾と戦えるのはいつになる?」


 ワクワクした様子で部下に聞くヘラデス。


「そうですね……恐らく今回の戦いで大分我々の人員に被害が出ました──その為、次は……一年後くらいが妥当なのでは?」

「遅いッ! そこまで私は待つ気は無いぞ」

「私に言われても……ヘラデス様であれば直接ラシェン王に申告した方が早いと思います」

「うむ。確かにそうだな──帰ったら即刻ラシェン王にお願いしてみよう」


 部下はホッと胸を撫で下ろす。

 このまま、ヘラデスのワガママに付き合っていたら大変な事に発展しそうな雰囲気まであった為だ。


「なんとしてでも、ラシェン王には戦いを急いで貰わないとなッ!」


 嬉しそうに、そしてワクワクする様な表情浮かべるヘラデスは、とても綺麗で炎弾という二つ名を知らない者が見たら、その表情に見惚れてしまうだろう。


 しかし、部下達にそんな事を思う者は居ない。

 それは、ヘラデスの残酷さと冷酷さを知っているからである。


「おっ? そろそろ見えて来るな」


 ロピとの戦いを夢見て、色々と想像していると、人間族の住処にいつの間にか近付いていた様だ。


「ヘ、ヘラデス様……何か……様子がおかしく無いですか?」

「……」


 ジャングルを抜けて、高い城壁が見えた頃、何やら煙が複数立ち昇っているのが見えた。


「なんだありゃ……?」

「お、おい俺達の国はどうしちまったんだ?!」

「あの煙は何だ?! 城が燃えているのか?!」


 少し離れた位置からでは全容が分からない為、兵士達の中では憶測が飛び交う。


 そして、兵士達の不安が他の兵士に伝染していき、どんどん兵士達の中では不安が募っていく……


「ヘラデス様……」

「何かあったな……慎重に近付くぞ──負傷者は私達から距離を置かせて、後から来る様に伝えろッ」

「はい!」


 こうして、ヘラデス達は人間族の住処に到着して、ラシェン王が殺害された事を知る。


 その話を聞いて、リンクスや他の兵士達はとても悲しんだ。

 だが、ヘラデスだけは笑い、更に新しい王がカールになった事を知った時は大笑いしていたと様だ……

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