第399話

 カール達の追ってを振り切り、私は人間族の住処の特徴である高い城壁まで一瞬にして到着する。


 私のあまりの速さで城壁に到着した為、見張りをしていた兵士達には、まだ私の報告が通ってない様だ。


「これくらいの高さなら大丈夫だな」


 顔を上げて、城壁の高さを測り突破可能な事を確信する。


「ふぅ……」


 一瞬の呼吸と共に足に力を入れて城壁を駆け上る。

 そして、頂上に居る兵士達の間を駆け抜けて、私は人間族の住処を脱出した……


「おぅッなんだ?!」

「今、俺達の間を何かが通ったか?」「風だろ?」


 暗いと言う事もあり、兵士達は一瞬だけ驚いていたが、直ぐに職務に戻り、見張りを続ける。


「お、おい! あれを見ろよ」

「な、なんだ……? 王城が燃えている……?」


 ガルル達が脱出する前に施した火の気がどんどんと、大きくなり今では、何処から見ても、その炎が見えるまでになっていた。


 私は人間族の住処を脱出した後も足を止めずにひたすら走り続ける。


 そして、暫く走っていると前方に大量の人影が見えた。


「ネークやガルル達か……」


 ネーク達は、私の接近にまだ気が付いて無いのか、何やら話し込んでいる。



「ガルル、作戦遂行は見事だ──しかし、まだシク様が中に居るのか?」

「はい。我々が残ってもシク様の邪魔になってしまうと思い、先に脱出しました……」

「そうか……確かに、シク様の場合は……そうだな」


 ガルルの報告に、ネークの目つきが鋭くなる。


「よしッ。作戦通り、人間族の住処に奇襲を掛けるぞ!」

「「「「「「おぅッ!!」」」」」」


 獣人族全体が人間族の住処に体を向けて今にも攻め入ろうしていた。

 私は更にスピードを上げてネーク達の元に到着する。


「攻め入る必要は無いぞ」

「ッ?! シク様!」


 ネークやガルル達が駆け寄って来る。


「はは、流石シク様だぜ! やっぱり無事に帰ってきた」

「うふふ、当然ね。シク様に不可能なんて無いわ」

「良かったです。本当に……」

「は、はい! ガルルさんの言う通り本当に良かったです」


 一緒に潜入した九人が次々と笑顔で私が戻って来た事を喜ぶ。



「シク様……お疲れ様です。そして、お見事です」


 ネークも少し遅れて、私の前に歩いてきて、今回の作戦達成を労う。


 しかし、私は伝えなければならない。

 ラシェン王は死んだが、戦いは終わらない事を……そして、新しく王になったカールはラシェン王以上に凶悪な者だと……


「皆んな、少し話す事がある。ネーク、ここでは見つかってしまうかもしれないから、移動しよう」

「分かりました」


 私の言葉に獣人族全体を移動させる。少し離れたぐらいでは、カールが追いついて来る可能性がある為たっぷりと離れた。


 そして、私は先程の出来事を皆んなに向かって話す。


 ネーク達は一様に渋い顔付きになり黙り込む。


「……シク様、では、全面戦争は止められないのでしょうか……?」

「無理……だな……」


 あの様子を見る限り、今回の全面戦争を企てたのは、ラシェン王では無く、カールだろう。

 カールは以前から他種族を奴隷にする事を計画に練っていたのだろうか……?


「ッチ、折角俺達が危険を犯してまで行った作戦も、全てあの野郎の計画通りだったのかよ……」


 悔しそうにするググガだが、それは皆同じである。


「これから、どうされますか?」


 ガルルが、ネークに対して問い掛ける。


「……戦争は避けられないなら……戦うしか無い──先ずは、他種族にこの事を話す」


 決意した後のネークは迅速であった。


 直ぐに、各種族に伝える為の人員を考える。


「ネークさん、俺達は何すりゃいい?!」

「ググガ達は私について来い、エルフ族の村に向かう」

「エルフ族? なんでそんな所に行く必要があるんです?」

「前々から、共に戦おうと誘われていた──だが、俺達の手で終わらせ様と思って無視をしていた」


 成る程……確かに、我々だけでは天地がひっくり返っても人間族に勝てないだろう……


 人間族はとにかくに数が多い。そして、連携が凄まじく上手い……


 我々、獣人族も他種族と比べれば多いが、人間族には及ばない──だから、他の者達と協力する必要がある。


 そんな事を考えていたら、ネークから声を掛けられた。


「シク様には別の事を頼みたいのですが、宜しいですか?」

「なんだ?」

「人間族の監視をお願いしたい──貴方であれば何かあっても、奴らから逃げられるでしょうし」

「分かった。引き受けよう」


 私の言葉に二つの声が上がった。


「うふふ。ネークさん、私もシク様について行くわ」

「わ、私もです!」


 リッテとキャリに頷くネーク。


「分かった。二人はシク様のサポートを頼む」

「「はい」」


 二人はニコニコしながら、喜んで居たが、リッテがキャリに小声で話しかけていた。


「うふふ、貴方はあっちの方が良いんじゃない?」


 リッテの視線の先にはガルル。


「そ、そんな事ありません! ぶ、無事に帰ってきてくれただけで満足です!」

「うふふ。健気ねー、アイツには勿体ないわね」


 こうして、私達はラシェン王の殺害を達成したものの、更に凶悪な王を相手にしないといけなくなったのだった……


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