第394話

「カール、これはどういう状況だ? それにラシェン王はどこだ?!」


 部屋の惨状を見て、グンドウは自身の王の身を案じる。


 とうの本人は寝具の上で死体として倒れているが、どういう訳か布団が被さっている為、グンドウは気が付いて無い様子だ。


 そんな、グンドウの様子をカールは冷や汗を掻きながら伺っている様子だ。


「カール、一体何があった!」

「…………」


 ラシェン王の死をこの場で伝えるべきか隠すべきかカールの頭の中ではシーソーの様に、どちらに傾けば自身にとって都合の良い展開になるかを考えているみたいだ。


 だが、そんなカールに痺れを切らしたグンドウは待ちきれずにカールに詰め寄る。


「さっきから黙ってないで、なんとか言ったらどうだッ!」


 グンドウの圧に耐え切れなくなったのか、若しくは隠さない方が都合が良いと考えたのかカールは口を開いた。


「グンドウさん……落ち着いて聞いてくださいよ?」

「なんだ?」

「ラシェン王が……殺されました」

「ッ!?」


 カールの口からラシェン王が殺されたと聞いた瞬間にグンドウは自身の拳を握りしめて、カールに攻撃をした。


「ッ!」


 グンドウの攻撃はとにかく早く、目で追えるものでは無かった。

 しかし、カールはその攻撃を避けたのである。


「な、何するんですか?!」


 いきなりの攻撃に驚くカール。


「やったのは、どうせお前だろ?」


 グンドウは、再びカールに攻撃をし始める。


 一つ一つの攻撃が早く、鋭い。しかし、カールはその攻撃を全て避けていたのだ。


 グンドウ自身が強いのは分かって居たが、まさかカールがあそこまでとは……


 グンドウとカールの攻防は続く。


 基本は、一方的にグンドウがカールに向かって攻撃を繰り出している状況でカールは反撃が出来ない様だ。


 そうこうしている内に、二人の戦闘で室内はどんどん荒れ果てていき……


「ッ?! ラシェン王……」


 カールが攻撃を避けた拍子にラシェン王に被さっていた布団が取れた。


 王の胸には何度か刺された傷痕と、そこから流れる大量の真っ赤な血を見て、グンドウは一度足を止め、尊う様に目を瞑った。


 そして、ゆっくりとカールの方に向き直る。


「反逆者めッ。お前は前から気に入らなかった」


 グンドウの威圧が上がる。


「グンドウさん、何か勘違いしているみたいですが、やったのは俺じゃ無いですよ?」

「ほぅ……なら誰だと言うのだ?」


 グンドウの言葉にカールは私の方を見て応える。


「ラシェン王を殺したのは、そこに居る獣人です」


 カールの言葉にグンドウが私の方を見る。


 ……なんという威圧感……いや、これは殺意か……?


 今まで、カールに向けられた殺意がカールの言葉によって私にも向けられる様になった。


 そして、グンドウは丁寧にラシェン王を布団に包み、移動させた。


「ラシェン王よ……直ぐにコイツらを捕まえて、直ぐに寝心地の良い場所に移しますゆえ、それまで辛抱を……」


 カールがいつの間にか私の隣まで来ていた。


「どうやら、不味い状況になった様だ」

「……」

「どうだろうか、ココは二人で協力してこの場を乗り切らないか?」


 カールの提案に私は、少しだけ思案するが、結局は協力するしか助かる道が無さそうなのでカールの提案に首を縦に振る。


 今、逃げたじても良いが、まだガルル達が逃げ切れて無い可能性もある──普通であれば問題無いくらいの時間は稼げたと思うが念の為、もう少し時間稼ぎをするか……


「それじゃ、まずはグンドウさんの攻撃についてだけど……これは気を付けろととしか言えない」

「どういう事だ?」

「あの人は、戦闘のプロだ。俺達なんかが足元にも及ばない程強いし、経験がある。それに……」


 この、緊急的な場なのにカールは少し濁す様な感じである。


「なんだ?」

「さっきまで、俺に対しての攻撃どう思う?」

「相当な実力なのは直ぐに分かった」

「あはは、そうだよな……でも、あれ本気じゃ無いんだよ」


 カールの言葉が途切れたと思ったら、グンドウがラシェン王を安全な場所まで移動させて、こちらに向かってゆっくりと歩いて来る。


 そして、先ほどまでと、違うのは背中にある大剣に手を掛けた所だ。


「言わなくても、分かると思うけど、あれがグンドウさんのメイン武器だ──さっきまでの感覚で避けていたら確実に切られるッ」


 グンドウは背中の大剣を抜いた。


「グ、グンドウさん、さっきも言いましたが、殺したのは俺じゃ無くて、こっちの獣人ですよ?」

「お前の奴隷だろ──お前も同罪だ……」


 この後に及んでカールは最後の悪あがきをするが、全くもって意味が無かった様だ。


 そして、コイツは協力しようと言っときながら、助かる道が有れば平気で私を売るという事が分かった。


「あ、あはは冗談だって、裏切ろうとした訳じゃ無い──ただ、揺さぶりを掛けようとしただけさ」


 グンドウが私達に向かって一言口を開く。


「大人しく捕まれば、この場で危害を加えない──しかし、抵抗する様であれば腕の一本は覚悟しろ」

「「……」」

「そうか……分かった」


 すると、グンドウが大剣を持っているとは思えない程の速さでこちらに向かって来る。


 そして、私とカールをまとめて斬り伏せる様にして、腰辺りを右から左へと大剣を振るったのであった……

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