第395話

「あ、兄貴! 早く戻ってシク様を助けに行くぞッ!」


 ガルルに抑えつけられているググガは必死に暴れて拘束から逃れようとする。


「ググガよ、落ち着け。俺達は逃げるぞ」

「なんでだよッ! シク様を見殺しにする気か?!」


 どうやら、シクの伝えた言葉の意味を正確に理解しているのはガルルだけの様だ。


「ガルルさん、ググガさんの言う通りです──我々も再び戻ってシク様を助けましょう!」


 皆の考えは、ガルルだって同じだ。本当であれば直ぐにでもシクの跡を追いたかった様だ。


 しかし……


「皆、よく聞け。俺達はシク様を追わずにリッテ達と合流する──合流したらそのまま、人間族の住処を脱出するぞ」

「「「!?」」」


 ガルルの言葉に他の三人は信じられない様な視線を向ける。


「兄貴、どうしちまったんだよ?!」

「そうです。シク様をお守りするのが我々の使命なのでは無いのですか?!」

「今から戻っても、きっと間に合いやすから直ぐに向かうべきです!」


 三人の発言にガルルは首を振る。


「俺達の目的はなんだ?」

「そりゃ、ラシェン王の殺害だろ」

「そうだ。では、その殺害が成功した今、次の目的はなんだと思う?」

「人間族の住処の脱出でしょうか?」


 コクリと首を縦に振るガルル。


「そうだ。ここからの脱出が次の目的だ」

「──それと、シク様を助けに行くのは関係無いでしょう!」


 ガルルの言いたい事が理解出来ない仲間に、次はハッキリと言葉にして説明をする。


「結論から言おう。シク様が無事にここを脱出するのに、一番良いのは一人で脱出する事だ」


 ガルルの言葉を聞いて、まだ理解が追い付かない三人に、続け様に説明をする。


「シク様の能力の凄さはお前達も、よく理解しているな?」

「あぁ、ランクAの速さは半端無いぜ!」

「そうだ。シク様の速さに追い付けるものは、恐らくこの世界に居ないだろうし、居たとしても、そいつはランクSだけだな」


 仮に同じランクAの身体強化持ちが人間族側に居たとしても、スキルを使用しない元々の身体能力で獣人であるシクに勝るのは不可能だろう。

 ランクが一緒だろうが結局はその差でシクに追い付け無い。


「だから、シク様がココを脱出しやすい一番の方法は一人で逃げる事なんだ」

「そ、そんな事ねぇーだろ? 仮にそうだとしても、俺達が居ればなんかあった時に身体はって守ったり、出来るだろ!」


 ググガの考えに、ガルルは首を振って否定する。


「いや、それは逆効果だ。シク様は優しい──仮にその様な場面になった場合、シク様は確実に俺達を助けようとするだろう」

「「「……」」」


 ガルルの言葉に反論は無い。皆が、ガルルの言葉に納得しているからだ。


「た、確かにシク様なら……そうだな。俺達がピンチになったら助けちまうよな……」

「そうだ。だから俺達はシク様を置いて脱出する──その方がシク様に取っては脱出しやすからだ」


 ここに来て、やっとガルルの言葉に納得した三人。

 ガルルは先程まで暴れていたググガの拘束を解く。


「納得したなら、さっさと逃げるぞ──この城の中に人間族がどんどん集まって来るのを感じる」

「あぁ、分かったぜ──これもシク様のためだもんな」

「そうだ」


 自身の考えを理解してくれた弟が微笑ましかったのか、ガルルはググガの頭をガシガシと撫でる。


「な、なんだよ?! 兄貴、やめろよな!」

「はは、お前が成長している姿が嬉しくてな」

「な、なんだよ急にッ! それよりも早く行こうぜ」


 照れ隠しなのか、グガガは少し不機嫌そうな表情をガルルに向けた後に城門に向かって走り出した。


 その跡をガルル達も遅れずに付いていく。


「兄貴、俺達は理解出来たけどよ……アイツは絶対にうるさいぜ?」

「……あぁ、どうやって説得しようか考えている──シク様に頼まれた以上は責任を持って皆を無事に脱出させたいからな」


 ググガとガルルが言うアイツとは恐らくリッテの事だろう。


 四人は足を動かしながらもリッテ達をどうやって納得させるか悩んでいる様だ。

 スキルを使用している事もあって、リッテ達がいる城門には入る時の半分の時間も掛からずに到着する。


「……鎧を着た見張りが居るが、恐らくリッテ達だろう──このままいくぞ


 ガルル達は城門の前に居る三人の見張りの前に姿を表す。


「うふふ、どうやら成功したのかしら?」


 フルメイスである頭の甲冑を取り、顔を見せるリッテ。


「あぁ、ラシェン王の殺害は完了した」

「ご苦労様。それでシク様はどこかしら?」


 リッテはシクがいない事が不思議でガルルに質問する。


 その、質問にガルルを含めた四人に緊張が走る。

 だが、悠長に城門の前で話している暇は無いので、ガルルは手早く今までの説明とシクに取っての最善策について話す。


「そう。分かったわ──なら私達は早く脱出しましょう」

「「「「え?!」」」」


 ガルルの言葉を聞いて、荒れ狂う姿を想像していた四人であったが、想像していた反応とは真逆の反応に困惑している様子だ。


「うふふ。私はアンタ達みたいに馬鹿じゃ無いからシク様の考えや行動は分かっているつもりよ」

「そ、そうなのか?」

「えぇ。シク様がお優しい事は既に知っているし、アンタ達が考えている事は私も考えてた所よ──だから、シク様の邪魔にならない様に私達は脱出しましょう」


 一番説得するのが大変だと考えていたリッテが一番簡単に納得した事に拍子抜けしたガルルであったが、時間が無い今は非常に有難い様子だ。


 こうして、ガルル達はネーク達に合図を送り、人間族の住処を脱出する為に走り出した……

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