第385話
扉をノックする音が静かな部屋に鳴り響いた。
「シク様……そろそろお時間です……」
リッテが緊張した面持ちで声を掛けて来る。
午前中の集団戦の訓練が終わり、私達は夜の作戦まで仮眠を取っていた。
そして、とうとう本番である……
準備万端! とは言えないが、時間が迫っている為、決行は今日しか無い。
居間に向かうと、既に準備を終えた仲間達が私の事を待っていた。
「皆んな、準備は……済んでいる様だな」
全員が静かに頷く。
「今から私達はラシェン王を暗殺する──そして、皆んな無事にネーク達の所に帰ろう」
元々、口下手である私はそれくらいしか皆に向かって話す事が出来なかった。
すると、ネークから副リーダーに任命されたガルルが口を開く。
「皆んな、シク様の言う通り、全員一緒に脱出するぞッ」
「「「「「おう!」」」」」
そして、私達は小屋から外に出る。
既に城内も見張り以外は完全に寝静まっている時間帯の為、今は見張りの足音と虫の鳴き声だけが響いている状態だ。
私達は闇に溶け込む様に足音を立てずに移動する。
「まずは、庭から城内に入るぞ」
私達は城内の門まで移動すると──門の前には当然の様に兵士が見張っていた。
「三人か……」
いくらカールに城内を案内して貰ったり、情報を聞いたりしても、流石に夜の見張り人数や配置までは調べる事が出来なかった。
しかし、門の前に兵士達が居るという事はココに来る前に容易に想像が出来た。
「シク様、やるか?」
「あぁ。当初は二人を想定していたが三人でも、問題無いだろう」
考えている暇は、あまり無い。
私が同意した事を確認したググガと他二人が腰を沈め、いつでも走れる態勢を整えた。
そして、ググガを含める三人の足が淡く光り出す。
一瞬だけ、見張りにバレるかもと思いチラリと確認するが、兵士達は門の前で楽しく談笑しているだけで、こちらには全く気が付いて無い。
「そんじゃ、まぁ行ってくるかな」
「ググガよ、油断するなよ?」
「おう!」
それだけ言うと、ググガ達三人は物凄いスピードで兵士達に近付いて行く。
最新の注意を払いながら走っている為、思うほどスピードは出ていないかもしれない──しかし、その分気配を消しているので、兵士達はググガを、含める三人が半分程近付いても、まだ気が付いていない。
「うふふ、やはり人間族はマヌケが多い様ですね」
「リ、リッテさん、お、お静かに。相手にバレちゃうかもしれませんよ!」
二人の小声が耳の中に入ってきて、満たされるのを感じていると、とうとう向こう側もググガ達の様子に気が付いたようだった。
しかし、気がつくのが大分遅かった様だ。
「ッ敵しゅ──」
城内の中に居る仲間に伝える為なのだろう。兵士達は大声を上げようとしたが、それをググガ達三人がさせなかった。
「はは、今気が付いた所でオセェーよ!」
まず、ググガが兵士一人の背後に素早く回り込み口元を抑えた。その後に首を締める。
「クッ、苦しい……」
最初は大きく抵抗をする兵士だったが次第に首が締まっていき、最後にはググガの腕を何度も叩き、解放させてくれと合図を送る。
そして、意識の糸が切れる様に脱力した。
他の二人も同様、騒がせない様にと口元を抑え、兵士達を絞め落とした。
「よし……」
私達も素早く城門の前に移動する。
「へへッ楽勝だったぜ」
「良くやった、ググガ」
「うふふ、なかなかやるじゃ無い」
「さ、流石ガルルさんの弟さんです!」
よし、後は城内をバレずに忍び込み、その後……ラシェン王を討つ。
「ググガ達、よくやってくれた──ここからは、作戦通り二手に別れるぞ」
一つの班は、ラシェン王の暗殺──もう一つの班は、逃走ルート確保をして貰う。
「リッテ、キャリ、頼むぞ?」
「うふふ。シク様の為に全力を尽くしますわ」
「お、お任せ下さい!」
逃走ルート確保班は、リッテとキャリを中心に五人でやって貰う。
そして、キャリがガルルに駆け寄る。その様子を少しニヤついた表情で見るリッテ。
「ガ、ガルルさん……」
何かを言いたそうにするが、なかなか言い出せない様だ──しかし時間が無い事を知っている為か、キャリはガルルに一言だけ声を掛ける。
「ぶ、無事に帰ってきてくださいね?」
精一杯の掛け声にガルルは力強く頷く。
「勿論だ。キャリ達も無事でな。あまり無茶をするな」
「は、はい!」
ガルルの言葉を聞いたキャリは嬉しそうに笑いながら俯く。
「うふふ。甘いですわねぇ」
「リッテ」
「はい、なんでしょうか」
「頼むぞ?」
「お任せ下さい。シク様達と逃げ道はシッカリと確保させて頂きます」
そして、私とガルル、ググガを中心に残り五人はラシェン王の暗殺を実行する為城内に入り込むのであった……
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