第384話
「シク様……相手の強さの秘密は……」
「あぁ、恐らくあの副隊長のお陰だな」
「うふふ。人間族とは弱いくせに厄介ですわね」
「ど、どうしますか?!」
どうやら、他の者達も強さの秘密が分かっている様だ。
「まずは、あの副隊長を潰すぞ」
「「「「はい!」」」」
私の指示と共に、皆が兵士達に向かって走り出す。
もちろん私もだ。
「ふ、副隊長! 獣人族が来ますッ」
「慌てるな! まずは盾を更に三人増やせッ」
副隊長の言葉に、後列に居た三人が素早く前列に出て盾を構える。
「へへ、そんなんで俺達の攻撃を防げると思うなよ!」
「ググガの言う通りだな」
二人はコロシアムの時の様に二人一斉に勢いを付けた前蹴りを盾に向かって繰り出した。
先程はググガ一人の蹴りだけで盾役を横転させた。
二人であれば尚更、盾役を横転させる事は余裕であろう。
しかし……そうはならなかった……
なんと、兵士達は一人の盾役の後ろに数人が回り込み、横転しない様に支えたのであった。
「「なっ?!」」
その作戦はバッチリと決まり、ガルルとググガの両方の蹴りを受け止めたにも、関わらず盾役はビク共しなかった……
本来であれば、二人がこじ開けた穴から他の者が陣形の中に入り込み、乱戦に持ち越して勝利出来た筈なのに、それを阻止する様に指示した副隊長は、やはり他の兵士達とは違う様だ。
「どうする兄貴! スキルを使うか?」
「いや、スキルを使えば訓練所では無くなり、下手したら殺してしまう可能性もあるからダメだ」
一旦、少し下がった二人の兄弟は、前衛を崩せなかった事に悔しそうにしていた。
「よし。お前達、よく防いだッ──これこそが我々の力だ! お前達個人では、確かにあの獣人達には敵わないかもしれない。しかし、力を合わせれば別だ!」
副隊長の言葉に、戦っている兵士達だけでは無く、周りで観戦していた大勢の兵士達が興奮している。
「うぉーー!! やっぱり副隊長はすげぇーぜッ!」
「やっぱり、俺達人間族は至高の種族だぜ!!」
今まで、私達に手も足も出なかった。
しかし、今は私達が兵士達に良い様にされている。
攻撃自体は食らっていないが、私達の攻撃が通らない。
そしてその後、何回か盾役を崩す為に攻撃を仕掛けたが、結果は同じで全てを上手い具合に対処された。
「シク様、どうする?! コイツらを全然崩せねぇ!」
侮って無かったと言えば嘘になる。
だが、ここまで苦戦するとは想像して無かった。
戦う間際にカールが言っていた言葉を思い出す──恐らく、カールはこれを言っていたのか……
今回はただの訓練だからいいが、これが本当の戦争だったら、どうだろうか?
人数は圧倒的に人間族が勝る。
そして、スキルは使用してないとは言え、同じ人数でほぼ互角……
「これは、不味いな……」
今後、人間族と他種族がどの様になっていくかは、分からないが、恐らく戦争になるだろう。
そして、人数差は圧倒的に人間族だ──他の者達は人間族が弱いので平気だとか言ってはいたが、この状況を見る限り……
戦い中と言うのに私は戦いに集中出来ていなかった。
そして、一時間程戦っても決着が着かない為、訓練は終了した。
「──そこまでッ!」
カールの鋭い声に、今まさに兵士達に突っ込もうとしたググガをガルルが止めた。
「いやー、面白かったよ」
拍手する様にして、近づいて来るカール。
「俺はお前達を信じてたけど、君達からしたら意外な結果になったか?」
少しだけ、挑発する様な表情で私達を見るカール。
その発言にググガが何かを言い返そうとするがガルルに止められる。
「いやー皆んな良くやったね。流石は俺の部下だよ──獣人族相手に、ここまでやれるなら、問題無い」
カールの言葉に兵士達はとても喜んでいた。
実際に戦っていた兵士達は勿論の事、周りで応援していた兵士達も、まるで自分達が褒められているかの様に嬉しそうにしている。
「いやー、君達のお陰で、本当に遊撃隊の訓練になっているよ」
それからは、特に何かあるわけでも無く、小屋に戻る事になった。
前を歩くカールの後に私達は付いて行く。
頭には布を被り、両手には鎖の腕輪である。
「こんなに、いろいろ協力して貰っているから、何か君達にご褒美をあげたいとおもうんだけど、何かあるかい?」
カールは後ろに振り向き、笑顔で質問して来る。
「いや、特には無い」
「はは、そうか。まぁ何か欲しい物があったら教えてくれ、出来る範囲で対応するよ?」
機嫌が良さそうだな……
「ふぅ、兵士の訓練は順調だし、これでヘラデスさんが戻って来れば俺の仕事も楽になるし、いい事だらけだな」
ヘラデス……炎弾か。
すると、私の後ろを歩いていたリッテが声を上げる。
「カール様、質問してもよろしいでしょうか?」
「ん? なんだい?」
「ヘラデス様は、今戦場にいらっしゃるのですよね?」
「そうだね──確かエルフの村に向かったね」
「前にチラッと言ってましたが、そろそろ戻って来られるんですか?」
リッテの質問にカールは一瞬だけ真顔──いや、悪質な表情を浮かべた様に感じたが、直ぐに表情を戻し答える。
「そうだね。恐らく明日か明後日には戻って来る予定だね」
「うふふ。そうなのですね。早くカール様の負担が減る事を祈っております」
妖艶な笑みを向けるリッテ──男であれば、イチコロだろう。
なんて言っても、あのガバイですらリッテの事を気に入ってたくらいだからな。
ただ、カールは特に反応せずに私達を、小屋に送り去って行くのであった……
そして、シク達の後を去ったカールは方を震わせていた。
「ふふふふ、これで完全に実行に移すだろう──あぁ、このまま成功すれば俺は……」
何やら企んでいる事は明白だが、その考えを知る者は居なかった……
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