第382話

 作戦決行日の朝、私はリッテが起こし来る少し前に目が覚める。


「今日は忙しくなりそうだ……」


 今日は朝から遊撃隊との集団戦を行い、その後にラシェ王を暗殺する……


 午前中の集団戦をどうにか怪我無く終わらせる事が重要だな。


 今日の事を考えていると、扉をノックする音が聞こえた。恐らくリッテが起こしに来てくれたのだろう。


「シク様、おはようございます。朝食の準備が整いましたので着替えたら来て下さい」

「あぁ」


 私は朝の準備を整えて今に向かう。


「皆んなおはよう」


 私の挨拶に皆が次々と挨拶し返してくれる。


 いつも通りの席に座ると、すかさずリッテが朝食を目の前に用意してくれた。


「リッテありがとう」

「いえいえ、シク様の為なら、なんて事ありませんわ」


 男なら、誰でも落としてしまうであろう笑顔で応えてから、リッテも席に座る。


 そして、各々がご飯を食べ始めた。


 ……うん、今日も美味いな。


 私と同じ意見なのか、ググガは朝だと言うのにガツガツと美味しそうに食べている。

 そんなググガを見てガルルが注意をする。


「ググガよ、少しは落ち着いて食べたらどうだ?」

「へへ! 今日は特別な日だからな体力付けねぇーと!」

「うふふ。その出来損ないの言う通りね──私達は今日、大一番の勝負をするんだから、沢山食べないとね」

「だ、誰が出来損ないだって!?」


 リッテの辛辣な言葉やググガ達の様子はいつも通りだな。


 そんな風にして皆の様子を見ているとキャリだけは、いつもより元気が無い様に見えた。


「キャリ、どうかしたのか?」

「い、いえ……」


 なんだか歯切れが悪いな


「何か心配事なら言ってくれ」

「……きょ、今日の作戦で誰かが死ぬかもしれません。そう考えると……怖くて……」


 キャリの言葉に一同の表情が沈む。


「確かにキャリの言う通り、この作戦で誰かが死ぬかもしれない──むしろここに居る全員が死ぬ可能性だってある」


 この作戦は、それ程危険である。


「しかし、ここで私達がやらないと、これから更に人間族の差別は悪化して行くだろう──それは私達が困るだけでは無く、これから生まれて来る子供達も困る事になる」


 恐らく、このままラシェ王を生かしていれば、これから生まれて来る子供達は更に辛い思いをするだろう。


「私達自身を守る為に、そしてこれから生まれて来る子供達の未来を守る為に、この作戦は必要だ」


 私の言葉を黙って聞く皆に、私は最後の選択肢を与える事にした。


「この旅を出る前にも言ったが、この作戦は、とても危険だ──だから最後にもう一度皆に問いたい」


 全員を見回しながら口を開く。


「降りたい者は居るか? 仮にここで降りたとしても文句は言わ無いし、他のものにも文句を言わせるつもりは無いから安心してくれ」


 私の言葉に皆が一瞬だけ考える素振りを見せたが、直ぐに返答が返って来るくる。


「へへ、俺と兄貴は参加するぜ! なんて言っても、ネークさんからシク様を守る様に頼まれたからな!」

「ググガの言う通り、私達はどこまでもお供します」


 そんなガルルの言葉を聞いたキャリ。


 先程までの不安そうな雰囲気を殴り捨てたかの様に態度が変わる。


「す、すみません! あ、あんな事言いましたが私も参加します。私もガルルさんと同じく、どこまでもシク様のについて行きます!」

「うふふ。私は考える間もなく参加しますわ。シク様に降り掛かる火の粉は全て私が払います」


 それから他の者達も四人と同じ意見であり、参加を表明してくれた。


 結果論になってしまうがキャリのお陰で、作戦前により一層全員の結束力が固まった様な気がする。


 それをガルルとリッテも感じた様だ。


「キャリよ、やるじゃ無いか、お前のお陰で皆の決心がより一層強固になった。副リーダーとして感謝する」

「い、いえいえ! わ、私は別にそんな事を考えて言ったわけでは無い……です……」


 ガルルに感謝の言葉を言われて照れているのか前髪で表情が分からないが雰囲気で照れているのが一発で分かる。


「うむ。不安に思う気持ちは分かる──だが安心しろ」 

「え、ぇ?」

「シク様だけでは無く、お前が危なくなった時にも俺は全力で守る」

「──ッ!?」


 ガルルの言葉が心に突き刺さったのか、キャリは頭から湯気がでているのでは無いかと思う程、顔を真っ赤にして机に突っ伏した。


「もちろん、シク様やキャリだけではなく、ここに居る皆んなを俺は守る!」

「はは、兄貴カッケェー!!」


 ガルルの言葉にキャリは感激しググガは尊敬し、そしてリッテは呆れていた……


「はぁ……途中までは満点だったのに、最後の言葉が余計なのよ……。うふふ、でも男の癖になかなかカッコイイじゃない。これならキャリを任せてもいいかもね」


 その言葉は独り言なのか、隣で机に突っ伏しているキャリに向けているものなのかは分からないが、リッテの言う通り、頼もしい限りだ。


 そして、朝食を食べ終わった頃にカールが迎えに来た。


「さて、今日は集団戦の訓練に付き合って貰うから、そのつもりでねー」


 こうして、私達の長い一日が始まった……




 

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