第380話

「オラッ!」


 今日も、今日とて遊撃隊の兵士達と訓練をしている。


 昨日は、まさかのガバイとの接触に、かなり焦ったが、なんとかバレずにやり過ごす事が出来た。

 これもリッテのお陰だろう。


「ック……獣人のくせして、生意気なッ!」


 今、私が相手をしているのは隊の中でも三番目に強いと言われている者だが、攻撃が止まって見える。


 そんな余裕な態度が気に食わ無いらしく、相手は余計に肩に力が入り攻撃が避けやすい。


「何をそんなに余裕振っている! 攻撃して来いッ」


 避けに徹していた私の行動に気が付いた相手は、もはや顔を真っ赤にしながら間合いも何も無く、ただひたすらに突っ込んでは拳を突き出すという単純な攻撃を繰り返している。


「あはは、良い様にやられているね!」


 隊長であるカールが揶揄う様に茶々を入れる為、相手は既に言葉になっていない言語を発しながら突っ込んで来る。


「シクさん、そろそろ決着を付けてもいいよ?」

「……」


 あまり、目立ちたく無いが……しょうがない


 私は、相手が突き出した右拳を片手で軽く逸らす。


「ッ!?」


 すると、相手は面白い様にバランスを崩した為、加減した力で相手の脇腹に左拳をねじ込んだ。


「クッ……」


 軽く攻撃した筈なのに兵士はフラつき、そして後ろに後ずさる。


 ……ふむ。やはり弱いな。


 ここ三日程訓練に付き合ったが、ハッキリ言って兵士達の強さは並以下だろう。


 これではデグやベムの方が強いまであるな……


「あはは、もう終わりかな?」


 カールの言葉に兵士の表情がより一層険しくなる。


「ま、まだまだです! いくぞッ」


 隊長の前で不甲斐ない姿を見せたく無い一心なのか、前に前にと足を踏み込んで行くが、どう見てもふらついているのは明らかだ。


 しかし、そんな兵士の姿を見てカールは、むしろ笑っている。


「お前みたいな獣人に負ける訳にはいかねぇんだよ!」


 名一杯の力を込めた攻撃の様だが、大振り過ぎる為、余裕を持って避ける──そして、避けざまに攻撃を打ち込むと、とうとう耐え切れなくなったのか兵士は地面に膝から崩れ落ちる。


「はーい、そこまで! シクさんお疲れ様。そして君はもう少し訓練が必要かな?」


 カールに言われた兵士は俯いていた。


 私は、周りを見渡すと他も同じ様な感じであり、手加減しても圧勝を収めている。


 そして、1人2回ずつ戦い終わり解散の為に一度皆を集めたカール。


「皆んな、訓練ご苦労様──色々な事を見せて貰ったよ」


 そんなカールは普段見せない様な冷めた感じで兵士達に言い放った。


「奴隷という良いものを所持出来た喜びとは逆に、君達を見ていると、情け無く感じてしまうよ……」


 辛辣だな……


「君達は、いつまで経ってもシクさん達を獣人族と思って、やれ劣等種なの、奴隷だのと、思い彼等から何も学ぼうとしない。呆れてしまうね」


 恐らく、カール的には兵士達に葉っぱを掛けているのだろう──だが、それを理解出来る者が少ない様で、カールが話している最中だと言うのに、何人もの兵士達がこちらに殺意の篭った視線を向けている。


「君達の、その無駄に高いプライドは一度捨てた方がいいぞ? そうしなければ何も学べないし、強くもなれない」


 今までは、人間族同士としか訓練をして来なかった兵士達。

 そこに急に獣人族である私達が訓練に参加して、手も足も出なかったら、憎く思うのも無理は無い。


「それじゃ、今日はここまでだ。明日は初めて、集団戦の訓練をするから、そのつもりでいてくれ──それでは解散ッ!」


 明日は集団戦か……


 カールはこちらに近付いて来る。


「さっきも、言ったけど明日は複数人で戦って貰うから、皆んなもそのつもりでいてくれ」


 そう言うと、私達に腕輪を付け、布を被せる。


「さて、城内はもう案内したから、今日は小屋で待機しててくれ、まぁ待機と言っても、何も無いけどね、あはは」


 そして、カールは私達を連れて小屋に帰り際に思い出した様に呟く。


「そろそろ、頃合いだな……」


 あまりにも、小さい声だった為、聞き取れなかったが、表情を引き締めていたのが気になった。


 すると、カールは一度兵士達の方に戻りある事を伝えた。


「皆んな! ちょっと待ってくれ」


 カールの言葉に兵士が再び振り返り隊長の言葉を待つ。


「あはは、言い忘れていたのだが、どうやらヘラデスさん達の隊が戻って来る様だ」


 ──ッなんだと?!


 カールの言葉を聞いて私達獣人族の表情が強張る。


 しかし、私達とは逆で兵士達の表情は先程とは逆で嬉しそうにしていた。


「うぉー! ヘラデス様達が帰って来るのか!」

「それでは、エルフの里を落としたと言う事だな」

「当たり前だろ! ヘラデス様が劣等種に負ける訳ねぇーだろ!」


 次から次へと喜びが兵士達の中に広がるのを感じる。


「あはは、皆んな落ち着けって。戦況の結果については、まだ分からないが、まぁ恐らく勝利しただろう」


 それから、再び解散させるとカールはこちらに戻って来た。


「すまないね、それじゃ行こうか」


 小屋に向こうとするカールに向かってリッテが真相を聞く。


「カール様よろしいでしょうか? ヘラデス様が戻って来ると仰っておりましたが本当ですか?」

「あぁ。今日の朝、ラシェン王から直接聞いた事だから本当だよ」 


 不味い……本格的に時間が無くなって来たな……


 こうして、私達は小屋に戻り緊急会議を始めた。

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