第366話

「あ、兄貴……俺達はこのデケェー所で戦うのか?」

「その様だな……」


 私達は目の前に建っているコロシアムを見上げる。


「さぁ、中に入りますよ」


 プブリウスを先頭に私を含める十人の奴隷達がゾロゾロと歩いて行く。


 外見で既に開いた口が塞がらなかったが、中に行くと更に凄かった。


「うわぁ……す、凄いです……」


 キャリは自然と心の中での声を漏らした。

 内部では、中央に戦う場所が用意されているが戦う場所自体もかなり大きいが、更に驚いたのは、その闘技場を円で囲う様にして客席が広がっていた事だ。


「一体何人、このコロシアム場に入るんだ?」

「想像もつかん……」


 軽く見積もっても、デグが作った村の住人が全て入ったとしても、半分も席が埋らないだろう。


 そんなコロシアム場は既に満席と言っても良い程、人間族が座っていた。

 そんな様子に驚いていると、プブリウスが声を掛ける。


「それでは、私達は席に向かいましょう──執事長、後は頼みましたよ?」

「お任せ下さい」


 プブリウスの指示により、執事長はガルルとググガに声を掛ける。


「それでは、二人共私達は控え室に向かいますので、付いてきて下さい」


 どうやら、ここで一旦お別れの様だ。

 ガルルとググガが口を開く。


「シク様、必ず勝ちます」

「あぁ……なんとしても勝って来い」


 ガルルに激励をすると、次にググガも宣言する。


「シク様、絶対に勝って来るぜ!」

「あぁ、お前達二人ならやれる」


 近くにはプブリウスも執事長もいる為、作戦についての会話は出来ないが、お互い言いたい事は十分に伝わっている筈だ。


「ガ、ガルルさん……ぜ、絶対に死なないで下さい!」

「あぁ、俺は死ぬ気なんて一切無いから安心してくれキャリ」

「は、はい……無事に帰って来るのを心よりお待ちしております」


 顔を真っ赤にしながらも、自分の意思を伝えたキャリにガルルが頭を撫でていた。


「ありがとうキャリ。俺達は無事帰って来る!」

「──ッは、はい!」


 二人のやり取りを見ていたリッテが小声で私に話し掛けて来る。


「うふふ、素敵ですね」

「あぁ……」

「シク様、絶対に……」

「分かっている」


 それから二人とは別れて、私達はプブリウスの後に付いて行くと……


「あぁ、そうそう──皆さんこれからラシェン王に挨拶しに行きますので、くれぐれも粗相の無い様にお願いしますよ?」


 ──ッなに?! ラシェン王に挨拶だと……


 プブリウスの発言に私達は一瞬だけ固まる。


「プブリウス様、ラシェン王とは人間族の王様でしょうか?」


 リッテが質問する。


「えぇ、そうです。今回のイベントを考えた人でもありますね──本日は私の奴隷が参加するので、少し挨拶をしようと思いましてね」


 どうする……ラシェン王に近付けるなら、作戦を待たずにして、殺害するか……?


「あぁ、居ましたね──皆さん、ここからは話さないで、頭を常に下げてください」


 プブリウスが私達に指示した後にゆっくりと進むと、ラシェン王の前に立ち塞がる体格の良い見張りが声を掛けて来る。


「貴様は何者だ? ここはラシェン王のいらっしゃる席だ!」


 王様を訪ねて来る者に対して口にする決まり文句なのか、槍で、これ以上前に進ませない様に防いでいた。


「私、プブリウスと申します。本日のイベントで私の奴隷が参加しますので挨拶に参りました」

「話は聞いている。その後ろの者達は何だ?」

「私の奴隷でございます」


 頭には布を被り地面を見る様に頭を下げていたので、門番は私達が奴隷だと直ぐには気付かなかった様だ。


「挨拶の件は分かったが、そこの奴隷達は置いていけ」

「分かりました──ですが、一人だけお供させて頂いても宜しいでしょうか?」


 プブリウスの願いに門番は他の仲間達と話し合い直ぐに応える。


「良かろう! 但し、ラシェン王の前で布を取るのを禁じる」

「承知致しました──それではシクさん、付いて来て下さい」


 プブリウスの命に従い私は後を付いて行く。

 その間、リッテとキャリがとても不安そうな表情で見て来るが、問題無いと手を上げて意思を伝えた。


 そして、プブリウスと一緒に少し歩き遂にラシェン王の前に到着する……


「ラシェン王、お久しぶりでございます──プブリウスでございます」


 丸々と太った身体は醜く、それは顔にも現れていた。


「おぉ、久しいな──変わりは無いか?」

「はい。お陰様で元気にやっております」

「そうかそうか──今日は何用だ?」

「本日のイベントに私の奴隷が参加しますのでご挨拶に参りました」


 プブリウスは片膝を地面に着けてラシェン王と話していた。


 ……コイツがラシェン王──そして、コイツを殺せれば……作戦は成功する。


 プブリウスの後ろで頭を下げてラシェン王を観察するが……


「──ッ!?」


 な、なんだ、この感じは……


 何やら身体を刺される様な気配を感じた私は、気配の正体を探る。

 すると、答えは直ぐ目の前にあったのだ……


「プブリウスよ、そこの布を被った奴は誰だ?」

「グンドウ様、お久しぶりです──こちらは私の一番お気に入りである奴隷でございます」

「ふむ。そうだったか、奴隷なら問題無い」


 こ、コイツが総隊長にして、人間族最強の男、グンドウか……


 

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