第353話

「ネーク、頭を上げてくれ」


 潜入組になる意思を伝え、ネーク自身も私に頭を下げて、それを受け入れる。


 すると、二人の獣人が潜入組に立候補した。


「シク様が行くなら、私も行きます」

「俺も行くぜ!」


 ガルルとググガが手を上げる。

 そんな、二人を見てネークは確認する様に問いかけた。


「いいのか?」

「はい、是非潜入組に入れてください」

「何故、潜入組に入りたい」

「私は、前まで人間族なんて嫌いで滅べ良いとさえ思っていました……」


 ガルルは誰かを思い出す様に話す。


「ですが、人間族にも良い者もいる事が分かったのです」

「良い人間族か……」


 ネークも、また誰かを思い出す様に目を瞑り、一瞬だけ微笑むのであった。


「人間族を全て滅ぼすのでは無く、ネークさんが言う通り、悪の元凶のラシェン王を殺害して、私達の様な他種族に対する差別的な意識が無くなるなら、そうするべきです──そして、その手伝いが出来るなら、私はしたいと思います」

「俺も兄貴の意見と同じだぜ!」


 ガルルの意見にググガが賛同する。


「そうか……分かった。お前達も潜入組になるんだ」

「「はい!」」


 これで、潜入組は私とガルル、ググガの三人まで決まる。


「他に、誰か立候補は居ないか?」


 それから、更に何人もの者達が立候補したが、最終的には私を含めた合計十人が潜入組に選べたれた。


「ネークよ、少々多いんじゃ無いか?」

「これでも、少なくした方です」

「怪しまれると思うが……」

「大丈夫です──言ってはなんですが、人間族は変な者が多いです」


 何やら、浮かない表情をする。


「今回の奴隷作戦に置いて、人間族の商人に協力を得る事が出来ました」

「ほぅ。手が早いな」

「元々、考えていた作戦の一つでしたので」


 ネーク自身は自分をリーダに向いてないと言うが、しっかりと周りや状況を判断しており、私としてはピッタリだと思う。


「その、商人が言うには獣人族が大好きな貴族がいる様で、十人程の獣人族が欲しいと言われていたそうです」

「なるほど……」

「まぁ、他の貴族達からは、エルフの奴隷が欲しいやら、オーガの奴隷が欲しいやら、色々ある様ですね」


 種族人数が多いからなのか、人間族は色々な考えを持つ者が多いな。


「シクさん、潜入の件は本当にいいのですか? かなり危険ですよ……?」

「問題無い」


 有無を言わせない返事にネークも、言葉が出ない様で、もう一度深々と頭を下げるのであった。



 そして、私は潜入前にメンバーと話す場を設けた。


「シクさん、集まりました」


 ガルルに言って、皆を集めて貰い、目の前に九人の獣人族が座っている。


「皆んな、集まってくれてありがとう──潜入について聞きたい事がある」


 私の言葉に皆んなが表情を引き締める。


「今回の潜入だが非常に危険で、生きて帰れない可能性の方が高いかもしれない。それでも参加するつもりか?」


 恐らく、全員で生きて帰れる可能性はとても低いだろう。

 その為、最終確認がしたかったのでガルルに皆を、集めて貰った。


「はは、シク様何言ってやがる──俺達はその覚悟を持って参加したんだぜ?」


 ググガが立ち上がる。


「シク様、ググガの言う通りです──我々は既に死ぬ覚悟を持って参加しています」


 ガルルとググガの言葉に他の獣人達も大きく頷く。


 ……コイツらを殺したく無いな


 私一人の力で、どうにか出来る訳も無いが、出来る範囲でコイツらも守る……


 昔の私が、どんな人間だったかは分からない。


 しかし、記憶が消えてレギュ、デグ、ベム、ラバ達に会い、仲間の愛おしさを感じる様になった。


 私、一人が助かるのでは無く、皆んなで生きるのが良いに決まっている。


 そして、この目の前に居る九人も一緒だ。


 仲間である以上、私は守りたい。



「シク様……?」


 自分の考えに没頭していた為、ガルルが少し心配そうに声を掛けて来た。


「あ、あぁ済まない。皆の気持ちは良く分かった」


 全員の顔を見回す。


「うん、全員良い顔付きだな」


 決意を持った表情に私は力強さや頼もしさを感じた。


「では、明日には奴隷商人と合流して明後日には、人間族の住処に到着する。皆はそれまで準備を整えてくれ」

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

「それと、ガルルとググガに関しては私の補佐も含めて副リーダーになって貰うが問題無いか?」


 私の言葉に一瞬だけ驚く二人だったが、直ぐに表情を引き締めた。


「全力を尽くします」

「はは、俺なんかが副リーダーかよ! シク様、俺は頑張るぜ」


 やる気がある様で良かった。


「では、明日の早朝に再度この場に集合だ」


 こうして、私達は人間族の住処に潜入する事が決まった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る