第9章

第352話

「ふぅ……やっと着いたぜー」

「ググガ、休んでいる暇など無いぞ」


 私とガルル、ググガ兄弟をはじめ、人間族の住処を偵察していまメンバーはネーク達が待機している仮住処に到着した。


「早く、炎弾達がエルフの村に向かった事を伝えようぜ」

「あぁ、そうだな。シク様はどうなさいますか?」


 ガルルが、私の体調に気を使い、休んででも良いと言ってくれるが、特に疲れては無いので、偵察組全員で報告しに行く事になった。


 ネークの所に向かうと、既に到着しているのは報告されていたのか、こちらの姿を見て、座る様に言ってくる。


「皆、偵察ご苦労だった。シク様もありがとうございます」


 一同を労うネーク。


「早速で悪いが、偵察の結果を教えて頂いても?」


 ネークの視線に私は頷き、炎弾率いる軍隊が朝早くにエルフの村に向かっている事を伝えた。


「なるほど……炎弾とオーガとゴブリンですか……」

「かなりの人数だったぜ、なぁ兄貴?」

「はい、人数からして千人は出陣していたと思われます」


 私やガルル、ググガ以外の偵察組にも話を聞き、ネークは今後どうするか目を瞑り考え始める。


「人数的には、人間族の戦力の大体三分の一程度をエルフの村、侵略に投入した感じか……」


 考えを纏める様にネークは独り言をブツブツと呟き、たっぷり三十分程考えて、考えを纏めた様だ。


「よし、決めた……」


 ネークが考えを纏めている間に、他の獣人族も集まっていた。

 そして、皆がネークに注目する。


「我々、獣人族は人間族の住処に奇襲をかける」

「奇襲?」

「あぁ。と言っても、成功する可能性があるかは、分からないから、まずは作戦を聞いてくれ」


 ネークは一度全員の顔を見回し、再び口を開く。


「まず、俺達の目標は何だ?」


 ネークの問いに、獣人族の一人が答える。


「ラシェン王の殺害ですね?」

「そうだ。人間族を統率しているラシェン王を殺害すれば──今直ぐには無理だとしても、子供や孫の世代になった頃には差別が無くなっているかもしれない」


 ラシェン王の人間族至上主義は、現在の人間族達の頭の中に植え付けられてしまっている。


 その為、ネークは元凶となっている害悪であるラシェン王を殺害する事で、未来の獣人族や他種族の助けになると思い、現在は行動している。


「それで、ネークさん。目的については皆んな知っているけど、作戦と言うのは具体的にどうするんだよ?」


 ググガが、作戦の内容に付いて確認する。


 すると、ネークは淡々と口を開いた。


「数人で、人間族の住処に潜り込み暗殺をする」

「数人で潜り込む?」

「あぁ、そうだ。少数精鋭で人間族の住処に潜り込み、ラシェン王を殺害して逃げる」

「おいおい、随分と消極的な作戦だな」


 ググガの言葉に、他の獣人族も頷く。


「ネークさん。向こうは戦力の三分の一が居ない状態なんだから、俺達が全員で奇襲すればやれるぜ!」


 次々と若い獣人族から、意見が出るが、ネークは首を振る。


「三分の一投入されて尚、我々獣人族の方が人数が少ないから無理だ」


 人間族が前々から人数が多いと聞いて居たが、そんなに多いのか……?


「それに、人間族に人数が負けている上に、地の利も向こうにある。人間族の住処に籠城されれば、持久戦で我々が負けるだろう……」


 人間族の住処は、以前に中型モンスター達の手によって一度破壊された様だが、偵察している段階では完全に元通りであった。


「なら、どうされるおつもりで?」


 ググガが更に何かを言おうと口を開きかけた時、兄であるガルルが手を上げて黙らせた。


「先程も言ったが、少数精鋭で人間族の住処に侵入する」

「どの様に侵入するおつもりで?」


 少し言い辛そうにしながらも、口を開く。


「奴隷として侵入する」

「「「「……」」」」


 一瞬の静寂の後に、次々と声が上がる。


「ネ、ネークさん見損なったぞ!!」

「あぁ、あんなクソみたいな人間族の奴隷になるだと?!」

「奴隷になるくらいなら、死んだ方がマジだぜ」

「そうよ! 私達獣人族は誇り高き戦士よ!」


 こうなる、事が分かっていたネークは表情を変えず呟く。


「皆の意見は十分に分かる。だから、その少数精鋭のリーダは私がなろう」


 ネークは自分、自らが、潜入チームのメンバーになる事を伝えた。


「そこで、悪いが俺と一緒に奴隷として潜入しても良いと考える者はいないだろうか?」


 誰もが直ぐには手を上げなかった。


 そこで、私は気になる事をネークに質問する。


「ネークよ、侵入した者達は片道切符か?」

「いえ、確かに生きて帰れる保証はありませんが、中に侵入して、成功したら合図を送ろうと思っています」

「合図?」

「はい。合図を送ったら、一斉に人間族の住処に奇襲を掛けてもらいたい」

「その後は?」

「奇襲を掛ければ、中の者達は外からせめて来る獣人族の相手をしなければならないでしょう」


 他の者達はネークの説明を真剣に聞き入る。


「人間族の住処の中が混乱すれば、その分我々潜入組は外に逃げやすい」

「なるほど……」

「なので、その奇襲組のリーダーはシクさんにやって頂きたいと思っています」

「私にか?」


 コクリと頷くネーク──そして、周りを見渡せばいつの間にか私の方に全員の視線が集まっていた。


 いや、無理だな……こんな人数を纏め上げるのは、私には無理だ……


 ネークの案を早々に諦めた私は、逆に提案する。


「この人数を纏め上げるのは、私には無理だ」

「──そ、そんな事は」

「だから、役割を逆にしよう」

「え……?」

「私が潜入組になる。だからネークは奇襲組なれ」

「そ、それではシク様の命に危険が……」


 私の案を受け入れようとせずにいる、ネークに私は首を振る。


「私の能力を知っているだろう? ──逃げるのは大得意だ」


 私は皆に見せ付ける様に、スキルを発動させて一瞬でその場から姿を消し、木の上に登った。


 誰もが、私の姿を見失いあちこち探す。


「ここだ」

「「「「「──ッ!?」」」」」


 私の声で、真上の木にいる事がようやく分かる一同。

 私は木から降りて、再びネークに声を掛ける。


「な? このスキルは逃げる為には最低だ──だから、潜入組は私がなろう」


 ネーク自身、本当は誰が一番潜入しているのに向いているか分かっていた様で、少し考えた後に深々と頭を下げて来た。


「シクさん、よろしくお願いします……」



 

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