第351話

「アハハ、お前達見たか、あの雷弾の強さを!」


 エルフの村から退却した炎弾のヘラデス率いる軍隊達は、現在人間族の住処に戻る最中である。


「あの強さは本物だぞ! 今まで噂だけが飛び交い、戦ってみたら結局大した事無い奴らばかりだった」

「それは、ヘラデス様が強過ぎたからです」

「ふむ。否定はしない──私自身、自分が強いという自覚はある」


 ヘラデスの言葉に、誰一人意を唱える者は居ないだろう。


「そんな私と互角の戦いをしていたんだ、雷弾は強い!」


 まるで、オモチャを買って貰った子供の様な表情で話すヘラデス。


「ですが、ヘラデス様は、まだ黄炎までしか使用して無いですし、白炎を出せば流石に勝ててたのでは?」

「どうだろうな……」


 ロピとの戦闘を思い出しているのか、ニヤリと笑うヘラデス。


「雷弾にも隠し球がまだありそうな感じだったぞ?」

「流石にそれは無いのでは?」

「アハハ、どうだろうな──とにかく次会う時が本当に楽しみだ」


 ヘラデスの笑いは良く通る様で、少し離れて移動している、リンクスとマーズにも聞こえていた。


「おいマーズ、聞いたか? ──どうやらヘラデス殿と互角に戦った奴がいる様だぞ!」

「恐らくロピさんですね」

「ロピ? 誰だそいつは?」

「はぁ……いえ、何でもありません」


 リンクスの中では、既にドワーフの村でのモンスターとの戦闘は頭の中に無い様だ。


「クソ、今回は後方支援していたが、次こそは戦場に出て活躍する!」

「そのまま、後方にいた方が……」

「ん? マーズよ何か行ったか?」

「い、いえ何も……」   


 マーズは、言っても無駄だと思ったのか黙った。


 今回、リンクスとマーズは後衛サポートをしていただけである。


「私は、戦場によって、もっと輝きたい!」

「か、輝く?」

「そうだ。戦場で華々しい活躍をして、私はヘラデス殿と結婚するつもりだ」

「け、結婚……」


 何やら、夢物語を語るリンクスにマーズは空いた口が塞がらない様だ。


 リンクス自体、頭脳も武力も無く、有るとすれば運くらいと言っても過言では無いだろう。


 だが、リンクス自身は本気で、そう思っているし、叶うと信じている様だ。


 気合が入っているのはリンクスだけでは無く他の者達も同様に、それぞれが成り上がろうと考えている。


 今回の戦いの結末には、皆が納得できていない様子であり、戦いには退却した人間族側の負けだろう──しかし、結果的に見れば、損害は圧倒的に相手側の方が大きい為、何が何やら、よく分からない戦いであった。


 そして、兵士達の間では、色々な話が行き交っていた……


「まさか、ヘラデス様がいて、互角の戦い──いや、俺達の方が押されていた……?」

「あぁ、それには俺も驚いた。あの青い光が現れてから戦場が覆ったな。それに雷弾の話聞いたか?」

「雷弾?」

「どうやら、ヘラデス様に対してタイマン貼ったらしいが、向こうは生きている様だ……」

「マジかよ……。やはり、どの種族にも化物クラスと言うのがいるらしいな」

「そうだな……まさかヘラデス様と互角なんて、何かの間違えだと思いたいくらいだぜ」


 そんな噂が兵士達内に囁かれるようになる。

 そして、ヘラデスを心配する様な声も上がるが噂されている本人は好敵手が見つかり、笑っていた。


 そんなヘラデスだが何かを思い出した様に表情を歪めた。


「はぁ……ラシェン王に報告するだけが憂鬱だぜ」

「今回はしょうがないですよ──最初は確実にこちらが勝っていましたが、あの光が……」


 部下の言葉にヘラデスが頷く。


「そうだ、急に出現したあの光はなんだ?」

「分かりません。ただ、あの光が地面に現れた時から、こちらの攻撃が一切効かなくなったと報告がありました」

「攻撃が効かねぇーだと……?」

「はい。どうやら、ある一定の威力の攻撃は一切効かない様です」


 部下の言葉に、ますます嫌そうな表情を浮かべて、長い赤髪をガシガシと斯く。


「あーぁッ! クソ、相手の謎の力を解明出来なかった事をグンドウの野郎にネチネチ言われそうだぜ……」

「……」

「こちらの損害はどれくらいなんだ?」

「損害自体は大した事無く、各リーダーの素早い判断で退却したのが効きました」

「はぁ……それだけが救いだな」


 こうして、ヘラデス率いる軍団は人間族の住処に戻っていくのであった。

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