第315話

 そこは木々が生い茂っているジャングルの中。


 既に夜なのか周りは暗く五メートル先は見えない状態である。


 そんな時に、一人の獣人族が大きな欠伸をした。


「くそ~暇だし眠いぜ」

「ググガよ静かにしろ」

「だってよー、ずっと人間族の住処を見張っているのも苦痛だぜ?」

「シク様を見てみろ、眉一つ動かして無い──まるで心臓すら止まっているかの様だ」

「あ、兄貴──それは不味いんじゃねぇーか……?」


 ガルルとググガの兄弟が話しているのを傍で聴きながら私は人間族の住処で動きが無いかを確認している。


 何故、私達が人間族の住処付近に居るかと言うとネークの依頼で、人間族の動向を探って欲しいと言われたからだ。


 本当は私一人で十分なのだが、ネークが無理やり五人程お供を付けてきた。


 その内の二人がガルルとググガの兄弟である。


「シク様よー、そんなにジッと見てて疲れないのかよ?」


 弟のググガが声を掛けて来る。


「特に問題無いな」

「すげぇーな……俺なんてもう肩がバキバキだ」


 同じ体制のままだった為かググガは一度立ち上がり、肩や腰を解す様に回し始める。


 すると、次はガルルが話し掛けて来た。


「シク様はいつからダブル持ちになられたんですか?」

「つい最近だな──足に違和感を覚えた頃に鑑定してみたら増えた」


 まぁ、もしあそこで老婆が私のスキルに気が付いて無かったら、今頃私は何をしていたのか……


 意味の無い事では有るが想像してみると、頭の中にはデグとベムとレギュ、ラバの顔が思い浮かぶ。


「アイツらは元気にやっているかな……」


 少し感傷深くなってしまった為、見張りに集中する。


 少しすると、近くで建てているテントから三人の獣人が出て来た。


「シク様、交換の時間ですので、どうぞお休み下さい」


 一応、監視は24時間体制にしており、順番で見張りをしている状態である。


「もう、そんな時間か」


 私は空を見上げていると、先程まで真っ暗だった空には陽の光が照らし出していた。


「後は俺達が見張りますので、シク様はゆっくり身体を休ませて下さい」


 流石に夜通し見張っていたので眠気はある。


「悪いが、休ませて貰う──何かアレば起こしてくれ」

「かしこまりました」


 私は立ち上がりテントに向かおうとした、その時──


「シ、シクさま──動きがありました!


 一人の獣人族の言葉に、その場に居る他の獣人族が一斉に人間族の住処に視線を向けた。


 視線の先では大きな正門が開き中から隊列を組んで人間達が行進しているのが遠目から分かる。


 しかも人間族が一人一人、鎧を着込んでおり、生半可な攻撃では通用し無さそうだ。


 一体何人出てくるのか確認する為に皆で見ていると又もや驚く光景が目に入ってくる。


「──ッえ?!」


 一人の獣人族が驚きの声を上げた。


「な、なんだよあれ……」


 その言葉に全員が再び人間族の住処を確認すると、そこには信じられ無い光景が広がっていた。


「ア、兄貴──アレってオーガか?」

「あぁ、それにゴブリンも有る」


 二人の言う通り、入り口からはオーガ族とゴブリン族が人間族同様に門から出て来たのである。


「シク様、あれはどうなっているのでしょうか?」


 ググガの言葉に、私は応える事が出来なかった。


「分から無いが、人間族と一緒に行動てしているのか……?」


 状況整理の為に独り言の様に呟く。


「すまんな、ググガよ。私もこの事に関してはネークから情報は教えて貰っていない」


 更に様子を伺っていると、オーガとゴブリン達は途切れる事無く次々と門から出てくるのが分かる。


 そして、ある一体のオークに再び驚きの声を漏らす一同。


「あ、兄貴、あのオーガ体色が紫だぞ?」

「……」


 ググガの言葉にガルルが口を開く。


「バルオールだな……」

「何か知っているのか?」


 何やら名前の様な言葉を呟いたガルルに私は聞いてみた。


「あくまで噂でしか聞いた事無いのですが、オーガ族には絶対的強者が居ると聞いた事があります──どうやらその強者とは体色が紫であると聞きます……」


 ガルルの言葉を聞き、再度全員がオーガを見る。


「多分アイツだな」


 ググガの言葉に皆が頷いた。


 それからもオーガとゴブリンは隊列を特に乱す事もせずに行進していた。


「シク様、これは何処に向かっているのでしょうか?」

「恐らく、エルフの村だな」

「エルフ?」

「ああ、どうも人間族は他種族を全て奴隷にするつもりらしくてな、その中でも特にエルフ族が奴隷の中で人気らしく、きっとエルフ族を攻め込んで奴隷を捕まえに行くのだろう」


 私の言葉を理解したのか私以外の獣人族達が顔を歪めた。


「よし、我々はネーク達の元に帰って報告するぞ」

「エルフ族に伝えなくていいのか?」

「それはネークの判断に任せる──我々はいち早く、この情報をネークに届ける事だ」


 こうして、急いでテントを畳んで私達はネークの元に戻るのであった……




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