第267話 ネークの怒り 2

「おい、来たぞ!」


 普段のネークでは考えられ無い程の口調と声量でジャングルの何処に居ても聴こえるくらいで叫ぶ。


「クソ野郎、出て来い!」


 ガバイの指定した場所は村から大分離れた場所であった。すると、ニヤニヤと笑いながらガバイとサット、マットが姿を現した。


「おやおや、呼び出して置いてアレですがこんなに大勢で来るとは思いませんでしたよ」


 ガバイの一言一言に対してネークを含めた獣人族達は怒りを覚える。


「おい、ガバイ。なんでコナを殺した?」


 俺はガバイに向かって理由を聞き出す。


「殺す……? ──あぁ、あの家畜の事ですか」


 ガバイが家畜と言った瞬間だった。今まで我慢していた筈のネークが剣を抜きガバイに向かって走り出す。


「殺す!」


 その形相は正に修羅である。


 やべぇ、追いつけねぇ!

 俺は必死に止めようと追い掛けるが、ネークはどんどんガバイとの距離を詰めていく。


「──悪いな、デグに頼まれた」


 ガバイとの距離を半分程詰めた辺りで先程まで隣にいた筈のシクさんがネークの前に立ちはだかる様に立っていた。


 やっぱり、早いな……


「シク様、どいてくれ! コイツがコナを──」

「気持ちは分からないでも無いが、やめとけ」


 シクさんのお陰で追い付いた俺はネークの肩を掴む。


「シクさんの言う通りだ。こんな事したら村に住めなくなっちまう」

「そんなの今更関係ねぇ! コナが居なかったら意味ねぇーんだよ!」


 ネークの肩が小刻み揺れているのが振動でわかる。コナが死んだ悲しみとガバイによる殺意が入り混じっているのだと思う。


「ネーク。お前が良くても仲間は違うだろ? お前と同じ気持ちかもしれ無いが、今村を追い出されてジャングルを彷徨ったら死ぬかもしれないんだぞ?」


 俺の言葉に反応するかの様に一瞬だけ身体がビクンとなったのが分かる。


「お前はリーダーなんだから、気持ちは分かるが、仲間の為にもここは抑えるんだ」

「……」


 ネーク自身仲間思いの為、俺の言葉に無言で頷く。


「素晴らしい──自分の妻が殺されたと言うのに気持ちを抑え込む事が出来るなんて」


 そう言って、息子達が何やら玉みたいなのをシクさんとネークに投げ付けてきた。


「な、何だ!?」


 その玉は二人に当たると破裂して中にはいっていた粉が二人を包み込んだ。


「何しやがった!?」

「あはは──いえいえ石だと流石に可哀想なので泥団子を投げただけですよ。デグさんには当たら無いで、そこの家畜二匹だけに当たったんだからいいじゃ無いですか」


 笑いながらガバイや息子達はタオルの様な物で手を拭いている。


「さて、恐らく時間が後少ししか無いと思うので、何か聞きたい事はありますかな?」


 時間が無いという言葉が引っかかるが、今は質問をする。


「さっき聞いたが、何故殺した?」

「あぁ──それは、そちらに居る家畜がダブル持ちになったので、私の立場が危くなりそうだったので殺しました」


 表情を変えずに、淡々と語るガバイ。


「それに、家畜ってだけでイライラしていましたが、殺した家畜は私を見る時、毎回汚物を見るかの様に目を細めるのでイライラしていたんですよ」

「お前は……そんな理由なだけで俺の妻を殺したのか……?」

「えぇ。貴方達が村に居ると臭いんですよねぇ」


 溜息を吐く仕草をしてからガバイは左右に頭を振る。


「まぁ──要するに貴方たち全員が私の考える計画に邪魔なんですよ」

「さっきかは何度か言っているが計画とは何んだ?」


 俺は凄む様に睨みつけ質問する。


「もう直ぐ死ぬ貴方達に言う必要なんてありますか?」

「あはは、親父の言う通りだぜ」

「ここにいる全員が間違いなく死ぬよな!」


 ガバイ達親子は何がそんなにおかしいのか腹を抱えて笑っていた。


「さっきから、何を言っている?!」


 俺は、ガバイ達が一向に計画について話さ無い為、痺れを切らせて叫ぶ様に聞く。


 すると、いつからだろうか地面が揺れている事に気がつく。


「なんだ?」


 俺以外にも地面の揺れに気がつく者達が居て、周囲を見回すが特に変わった様子は無い。

 しかし、レギュだけは目を瞑り耳を澄ます様に周囲の音を聞き取っている様だ。


「や、山神様、デグさん大変です!」


 焦る様に大声を上げるレギュに皆が顔を向ける。


「モ、モンスターが物凄い勢いで向かっています──それもかなりの数が!」


 レギュの言葉にガバイ達はより一層口角を上げる。


「貴方達、早く逃げた方が宜しいのでは?」


 同じ状況の筈なのにガバイ達は余裕な表情を浮かべている。


「ふふふ」

「何がおかしい?」

「まだ、気付きませんか? ──えぇそうでよね。貴方は頭が悪い」


 振動はどんどん大きくなってくる。


「一応教えといてあげましょう。先程泥団子と言っていたのは嘘で、あれは人間族が独自で作ったモンスターを誘き寄せる玉なんですよ」

「どう言う事だ?」


 ガバイは溜息を吐いて更に説明する。


「簡単に言いますと、先程の玉に当たるとモンスターが当たった相手に向かってひたすら追い掛けるんですよ」


 ガバイが話し終えたタイミングで木々からモンスター達が顔を覗かせた。


「ほら、来ましたよ? 早くお逃げなさい──あの村は、これから私が管理しますのでご安心ください」


 そう言って、ガバイは笑顔で手を振る様な仕草をした。


 モンスターは一直線に俺達に向かって来た。


 クソッ! 今思うと、全てガバイがこの村を乗っ取る為の計画だったのか!?

 ──だが村を乗っとる目的は何だ? 単純に住む場所が欲しかったからか? 俺はガバイ達の目的を考えるが、そんな暇が無い事に気付く。


「逃げるぞ!」


 俺の声に皆が一斉に従い走り出した。


「覚えとけよ?」

「これから、死ぬ貴方達の事なんて覚えとく必要は無いと思います」


 村を乗っ取られた悔しさや、最初の時点でガバイを村に入れた己の愚かさに怒りを覚えながら更にガバイに対して何かを言おうと口を開きかけた時。


「デグさん、やばいッス! 早く逃げるッス!」


 ラバが背中を押しながら無理矢理俺の事を走らす……

 

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