第266話 ネークの怒り

「デ、デグさん大変ッス!」


 まだ、日も上がり切って無い頃に勢い良く家の扉が叩かれる。


「本当に緊急ッス!」


 そう言ってラバが扉を開き中に入って来た。


「デグさん、コナさんが……」


 ラバの顔色は真っ青であり、小刻みではあるが手まで震えていた。流石に何かあると察した俺は何事か聞く。


「どうした?」


 ラバは一度ゆっくりと深呼吸を行い一言だけ呟く。


「コナさんが殺されたッス……」


 初めは何を言っているのか分からなかった。しかし、ラバの呟きはしっかりと聞き取れていた。


「なんだと……?」


 寝起きという事と昨日の宴会によるものか頭がスッキリしなかったがラバの言葉を聞いた瞬間に強制的に脳がフル稼働させられた様に動き出す。


「ラバ、事情を話してくれ」


 俺の言葉に頷き知っている事を話しくれた。


「今朝、村の中心でコナさんが倒れているのを村人が見つけったッス──いつから倒れていたか分からないけど獣人族という事で最初は誰も近寄らなかったらしいッス」


 恐らく、俺達側の村人が側を通ったら声を掛けていただろうが、時間帯的に誰も通らなかったのだろう。


「そして、ベムさん達が朝の鍛錬をしようと村の入り口に向かった所で倒れているコナさんを見つけたらしいッス」

「さっき、殺されたって言ってたがどういう事だ?」

「ベムさん達が直ぐに駆け寄って確認した所、身体の至る所から刃物で刺された後があったらしいッス……」


 クソ……なんで事だ……


「──ッネークはどうした?!」

「まだ、話して無いッス。ベムさんに頼まれて急いでここに向かったので」

「そうか……」


 俺は素早く家を出る準備を行う。


「デグさん、どうするッスか?」

「ネーク達に伝えに行くぞ」

「そうッスよね……」


 俺とラバはその後一言も話さず出来る限りの速さでネークの家に向かった。


「ネーク、いるか?」


 俺は扉を力一杯叩く。


「ふぁー。一体こんな朝早くどうし──なんだかただ事では無さそうだね?」

「あぁ……無理かもしれないが落ち着いて聞いて欲しい」

「なんだい?」


 俺はネークに今朝ラバから聞いた事を伝える。


「……あはは、な、何を言っているんだい? コナなら家に……」


 ネークは家の中に入りコナを探すが見つからない。


「デグ、本当なのかい?」


 ネークは悲しいのか──それとも怒りなのか表情の変化が一切無く表面上は冷静そうである。


「ラバ、本当にコナなのか確認がしたい。案内してくれるかい?」

「わ、分かったッス」


 ネークは仲間の獣人族達を全員叩き起こし準備を直ぐに整えた。


「こ、こっちッス…………」


 総勢20人くらいの集団が移動しているが、誰一人として話す者が居ない。 


 そして、早足で向かっていると遠目からシクさんとベム、レギュが居るのが見えた。


「ネーク……」


 ベムは悲しそうにする。

 そしてネークは殺されたと思われるコナを間近で見た。


「コ、コナ……なんでだよ……」


 ネークだけでは無く他の獣人族も無残に殺されたコナを見つめ悲しんだり、憤ったりしている。


 そして、ネークの雰囲気が変わった事に俺は気がついた。


「──ッコロス……」


 何やら呟きが聞こえた為横を向いてネークを見ると、そこには先ほどとは真逆で鬼の様な表情を浮かべていた。


「ネーク、何処に行く?」

「あぁ?! 決まっているだろ、あのクソ野郎の所だ。アイツが仕組んだんだ」


 ネークの言う通り、このタイミングでコナが殺されたとすると、犯人はガバイしか考えられない。


 すると、一人の村人が現れて俺に対して話し掛けて来た。


「デ、デグさん聞いてくれ」

「なんだ?」

「ガバイさんに届ける様に頼まれた」


 そう言って村人から一枚の手紙を渡される。そしてお役御免と言わんばかりに手紙を渡した村人は走り去っていった。


「デグ、なんて書いてる?」

 

 ガバイからの手紙にはただ一言、ジャングルで待つとあった。俺の横から盗み見る様にしていたネークは直ぐに仲間達に対して話す。


「お前ら! ガバイを殺すぞ!」

「「「おう!」」」」


 獣人族達は怒りがピークに達している様で、直ぐにジャングルに向かった。


「デグ、どうする……?」


 不安そうにしているベムに俺は応える。


「俺達も行くしか無いだろ」


 コクリと頷いたベムはシクさんとレギュに事情を話す。

 そしてネーク達獣人族は子供達も含めた獣人族総勢二十人を連れてジャングルに向かった。


「よし、ネーク達に追いつくぞ?」


 ネーク達の後を急いで追いかける。


「シクさん、頼みがあるんだが良いか?」


 俺は移動中にある事を相談する。


「ネークがガバイ達を殺そうとしたら、止めに入ってくれねぇーか?」


 俺自身で止めたいが、恐らく無理だ……

 シクさんは一度俺の顔を見て頷く。


「分かった。しかし何故だ? どんな理由であれガバイが居なくなるのは良いことでは無いのか?」


 不思議そうに聞いて来る。


「確かに、だけどアイツらがここでガバイ達を殺せば、もうこの村では暮らしていけなくなると思う。そんな思いはさせたくねぇ!」


 俺の説明に納得したのかシクさんは前を向きネーク達に追いつける様に歩を進めた。


 そしてネーク達に追い付き、ガバイ達の所に到着した……

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