第263話 ダブル持ち

 ベムとレギュに誘われて村から少し離れた場所まで来た。


「シク様、ここら辺で試してみましょう……」


 どうやら、ここら辺で先程手に入れたスキルを試してみようという話になった。


「山神様、私楽しみです!」


 レギュは目を輝かせながら私を見て来る。


「お、おい待ってくれ! 俺も見てぇ!」


 すると、奥からデグが現れた。


「村人に伝えに行くとか言ってなかったか?」

「あぁ、シクさんの事はバッチリ伝えて来たぜ!」


 デグの言葉にベムが反応を示す。


「どんな感じだった……?」


 ニカリと笑ってデグが話始める。


「それゃ、すげぇー驚いていたな! 今はラバが駆け回っている所だから、直ぐにでも広がると思うぜ?」

「デグとラバは良い仕事をした……」

「はは、ラバにもその言葉言ってやれ」


 それから三人は私に注目する。


「では、試してみるぞ?」 


 私は武器強化を使用する要領で脚に集中すると、微かに光を纏い始めた。


「「「おー」」」


 まだ、何もしていないが三人が驚く声を上げる。


 よし、とりあえずあそこの木まで走ってみるか。


 モンスター達が通った影響なのか一本だけ折れた木があった為そこに向かって走る。


「なっ!?」


 自分で驚いてしまうくらいの速さで移動し一瞬で木まで到着する。


「お、おい! シクさんどこいった?!」

「消えた……」

「や、山神様!?」


 先程私が居た場所では、デグ達が私の事を見失って探している様だ。


「あ! 山神様居ました!」


 恐らく、スキルを使って聴力を強化したのだろう。レギュが私の事を見つけて他の者達も此方に向く。


「い、一瞬であそこまで移動したのか?!」

「見えなかった……」

「速すぎますね!」


 三人が驚くのも無理は無い。実際にスキルを使用した私が一番驚いている。


「これがAランク……」


 まだ、上手くコントロール出来ない為、歩いて三人の元に戻ると尊敬する様な眼差しでこちらを見ていた。


「シクさん、まじで速すぎないか?!」

「流石シク様です……」

「山神様は元々早かったですが、先程のスピードは次元が違います!」


 三人は興奮しているのか、私以上に喜び、そして三人で感想会などを初めてしまう。


「も、戻ろう」


 このまま放置していたらいつまで経っても話し続けてそうなので私は早々に村に戻る事を伝える。


「えー、まだ山神様について全然話し足りないです!」

「そうだぜ、これからが良い所なのによ……」

「今日は良い夢が見れそうです……」


 三人の言葉を聞き流し私は村に向かって歩く。


「ま、待ってくださいよー」

「それにしても早かったな、さっきのシクさん」

「一瞬であそこまで移動出来るなんて凄すぎます……」


 私達がジャングルでスキルの確認をしている際に集まったのか村に戻ると大勢の村人が一か所に集まっていた。


「おい、シク様来たぞ!?」


 一人の村人が私に気付き声を上げると他の者達まで一斉に私の方に向き始めた。


「なんだこの人数は……?」


 表情には出さないが、あまりの人数に戸惑っていると、ラバがこちらに来て説明してくれた。


「ダブル持ちになったシク様を一目見ようと集まったッス!」

「私を見る為にか?」

「ウッス!」


 村人達が一斉に押し寄せて来る所をデグ達がバリケードを作って止めてくれる。


「シク様ー!!」

「ありがたや、ありがたや」

「やっぱりシク様はすげーな!」


 村人の殆どが来ているのでは無いかと思うほどの人数が居る。そして私を見て喜ぶ者や拝む者まで居る。


「わぁ……、山神様はここでも神様になられたんですね」

「その通り……シク様はこの村の神になった……」


 いや、なってない……


「へへ、シクさん。これはもしかするとガバイ達を追い出す事が出来るかもな!」

「そうッスよ! これで殆どの村人がシク様に就いた様なもんッス!」


 私もネーク達みたいに獣人族の筈が何故かその部分を村人達が気にする事が無いのは何故だろうか……?


 すると、奥の方から大きい身体を揺らして走って来る人間が三人居るのが見えた。


「な、何事だ!?」

「退け、親父が通れねぇだろ!」

「親父、俺達側の村人もいるぜ!?」


 人間の正体はガバイとその息子達であった。


「デグさん、これは一体何事ですかな?」


 デグの前では余裕な表情を見せるガバイ。


「見て分からねぇーのかよ?」


 そしてデグも余裕な表情を浮かべる。


「えぇ、無知な私にお教え下さい」

「はは、無知ならしょうがねぇーな」


 デグの言葉に一瞬だけガバイの表情が崩れるが直ぐに笑顔を貼り付けた。


「シクさんがダブル持ちになった」


 博識なだけあってガバイは驚愕した表情で私を見る。


「ダブル持ちとは、スキルって意味ですか……?」

「あぁ、それ以外に何かあるのか?」


 私がダブル持ちと聞き、先程貼り付けた笑顔が剥がれ落ち余裕の無い表情を浮かべ始めるガバイ。


「い、行くぞ!」

「お、親父いいのかよ?」

「俺達の村人取られちゃうぜ?」 

「いいから来い!」


 ガバイは息子達を連れて引き返して行った。


「あー、スッキリしたぜ!」

「ガバイ達は何故帰った?」

「はは、シクさんのお陰だ」

「私の?」

「あぁ、シクさんがダブル持ちになって村でも発言力が増した」


 発言力?


「はは、不思議そうな顔だな。元々シクさんは村人から人気があったが、ダブル持ちになった事で更に人気が増した。それは俺やガバイとかの比じゃねぇーくらいにな」


 一旦言葉を止めてガバイ達の後ろ姿を見てニヤリと笑うデグ。


「そんなシクさんがガバイ達を追放すると言えば恐らくあの三人を追い出す事が可能だぜ?」


 デグを含めてベムやラバは嬉しそうにしていた……

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