第249話 シク達の見回り

「シク様、私達も向かいましょう……」

「今日もいっぱい働きますよー!」


 ベムとレギュが私の腕を引っ張り歩き出す。


「二人共、歩き辛いのだが」


 私が話し掛けると、直ぐに腕を離すが、距離感がとても近い……


「山神様と同じ種族の方が移住して来て良かったですね!」


 私自身は、別に嬉しいという気持ちは無い。


「シク様、今日の見回りは半分だけなので終わったら、美味しいお茶とお菓子で優雅に過ごしましょう……」

「いいですね!!」

「レギュには特別に雑草茶を御馳走してあげる……」

「酷いです!」

「ふふ、冗談……」


 ベムは良くレギュを揶揄う。まるで妹が出来た様で嬉しそうである。


 村を見回っていると、声を掛けられた。


「シク様、寄って行ってくれ!」


 そこには若夫婦の姿があった。


「この前は畑の手伝いありがとうございました」

「いや、気にするな」

「ふふ、旦那が自慢してくるんですよ?」

「自慢?」

「今日は、シク様に会って、しかも畑を手伝って貰ったーとか、ずっと自慢してくるので羨ましくて」


 私と会ったくらいで自慢にならないと思うが……


「確かに……シク様に会うだけで幸せになる……」

「ですよね! 私は山神様と出会ってから毎日が楽しいです!」


 ベムとレギュが嬉しそうに話しているのを聞くが自分ではイマイチ分からない。


「それで、今日はどうかしたのか?」

「あぁ、そうだった。ちょっと待ってて下さい」


 そう言って、若夫婦は一旦家に戻り直ぐに戻って来る。


「これ、この前手伝ってくれた時に獲れた物なので良かったら持って行って下さい」

「いいのか?」

「勿論ですよ! 食べたら感想くださいね」


 男から野菜を詰めた袋を貰う。


「有り難く頂く」


 私が貰った袋をレギュが従者の如く代わりに持つ。


「村で、シク様を悪く言う奴らも居ますが、俺達夫婦は大好きですから!」


 夫婦の何気ない一言に私は心が暖まる様な気分になる。


 会話もそこそこに夫婦とは分かれて見回りに戻り歩き出すが、それから何人もの村人に呼び止められてしまい全く見回りが進まない状況である。


「シク様は本当に人気者だ……」

「なんだか、山神様が皆んなに認められている様で嬉しいです!」


 レギュがベムに向かって笑い掛ける。


「私はシク様だけじゃ無くて、レギュに会えた事も嬉しい……」


 そう言って、レギュの頭を撫でているベム。


「えへへ、私もベムさんの事好きです! お姉さんみたいです!」

「ふふ、妹よ……」


 村の見回りという仕事とは言え、楽しく見回っていると、また声を掛けられた。


「おやおや、誰かと思ったら野蛮人でしたか」


 声の方を向くと、そこにはガバイが立っていた。


「あまり、シク様を馬鹿にしていると殺す……」


 ベムは一瞬で弓を構えてガバイに向ける。


「……い、いいのですか?」


 先程の空気とは逆で緊迫した状況になる。


「いいとは……?」

「そんな、やばん……獣人族をこの村に入れて」

「いいも、悪いも最初からデクが言ったはず、この村は別に人間族の為の村じゃない……」

「そんな事を言っている訳じゃありません! 我々の様な優秀な種族と一緒に住むのがおかしいと言っているんです」


 ガバイが私を見る目は、まるで人では無く物を見ている様だ。



「一つ聞くけど、人間族が他種族より優れている部分って人口以外には何……?」


 ベムの質問に、デグは直ぐに答える。


「何を言っているんですか! それこそ、人口の多さこそが他の種族との格の違いです。優秀だからこそ、人数が多いのです」

「人間族がたまたま自然の要塞を手に入れたからこそ、増えただけ……他の点を見たらむしろ他種族より劣っている……」


 ベムの言葉にガバイは信じられ無い様な表情をする。


「な、なんて事を……貴方は頭の病を患っておりますね? まさか人間族が劣っているなんて言い出すとは……」


 頭を抑えて、大仰に嘆く。


「まさか、デグさんも同じ考え方とは言いませんよね?」

「デグもきっと同じ事を思っている……」


 ガバイは首を横に何度も振る。


「はぁ……馬鹿達の集まりだとは思っていたが、まさかここまでとは……」


 ガバイは聞こえない様に呟いたつもりだろうが、獣人族の私は聴覚も優れている為、聞こえてしまう。


「こうなったら、更に早めるしか無いな……」


 ガバイはベムに向き直る。


「貴方達の考え方は分かりました。私はこれで失礼します」


 そう言ってガバイは歩き去る。


「私、あの人嫌いです! 山神様の事を変な風に見てくるので!」

「ふふ、私もだよレギュ……」


 別に私自身はこの村を出て行っても良いと考えている。私の目的はあくまでアトスという子に会う事だし。

 だが、そんな事をしたらベムとレギュに止められそうではあるな……


 そんな事を考えていると、レギュの様子が変わる。


「どうした?」

「山神様、ベムさん、モンスターです!!」


 どうやら、レギュがモンスターの気配を察知した様だ。

 この村に着いてからスキル儀式を受けたレギュはなんと、身体強化(部位:耳 Cランク)であった。


「レギュ、近い……?」

「はい! 結構近付いていると思います!」


 その言葉にベムは私を見る。


「シク様、私行ってきます……」

「何が出来るか分から無いが私も手伝おう」

「私も手伝います!」


 こうして私達は村の入り口に向かって走り出す……

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