第248話 村の見回り

「デグいるかい?」


 俺の家の扉が鳴った。誰かが来た様だ。

 俺はまだ眠い身体を起こして扉に向かう。


「おう、ちょっと待ってくれ」


 顔だけ洗い、扉を開けるとそこにはネークとコナが居た。


「あはは、寝起きかい?」

「あぁ、それよりもどうした?」

「アタシ達も何か手伝おうと思ってね!」


 コナの言葉に隣に居るネークが頷く。


「住処の方はどうするんだ? 少しずつ家を建てるつもりなんだろ?」


 ネーク達に住む様に案内した土地には大きな家が一つしか無い為、現在は目下家の製作中である。


「あぁそれは他の者達に任せて来た。俺達はデグを手伝おうと思って」

「いいのか?」

「あぁ」


 ここまで言われたのなら何かしら手伝って貰おう。


「なら今日は俺達と村の見回りにでも行くか」


 俺は準備を済まし、いつもの集合場所に向かった……



「デグさん、おはようッス!」

「おう!」


 集合場所には既に全員が揃って居た。


「あれ? 今日はネークさんとコナさんも一緒ッスか?」

「あぁ、手伝ってくれると言うから連れて来た。今日は半分に分かれて回ろうと思うが、誰か……」


 手伝ってくれと俺が言う前にベムとレギュは一瞬でシクさんの腕を両脇から組む。


「なら副村長として、私はシク様と行動しようと思う……」

「わ、私も山神様と行きます!」

「なら、自分も……」


 ラバがベムの方に近付くのを俺は止める。


 すまんラバ……許せ


「お前はこっちに来い」

「え? え? なんでですか!?」

「いいから」


 理由も言わずに連れて行く。


「なら、俺達はこっちから回るから途中で合流しよう」

「あぁ。デグよ私達はいつも通りのルートで良いのか?」

「大丈夫だ!」


 シクさん達は毎日回るルートで俺達はルートを逆に辿る事にした。


「ひどいッス……」

「わ、悪かったよ……」


 シクさん達と別れた俺達は現在見回りの為、村を歩いている。だが、ベムと一緒に行動したいラバを無理やりこちらに引き連れたので、少し拗ねている様だ。


 俺が悪いが……


「ラバ君は、あのベムちゃんが好きなのかい?」

「ばっか! アンタは本当にデリカシーが無いね……そういうのは分かってても聞かないもんだよ!」


 ネークの質問にコナが注意する。


「な、なんの事ッスか!? 自分は別にベムさんの事を尊敬しているだけであり、す、好きなんて気持ちは持って無いッス!」


 ラバよ、それは好きですと言っている様なものだぞ……


「あはは、そうか。すまない」

「アタシの旦那が悪かったね?」


 二人大人な対応でラバに謝る。


「じ、自分は別にベムさんの事を好きとか、そういう気持ちは無いッスけど、そう見えるッスか……?」


 恐る恐る聞くラバに二人は大きく一回頷く。


「デ、デグさんやばいッス。これ、もしかしてベムさんにもバレていますかね?」


 心配そうに見て来るラバに俺は応える。


「安心しろ、アイツは鈍感だから全く気付いていないと思うぞ」

「そ、そうですか……」


 少し肩を落とすラバであった。


 平和だな……


 俺は、こんな日常が続いていくことを願う。


「ラバ君、男は度胸さ。俺もコナと付き合うまではひたすらアピールしたもんさ」

「アンタ、やめな! 恥ずかしい……」


 コナが恥ずかしそうに顔を赤める。


 シクさんは人間族の俺から見ても、とんでも無く美人に見えるが、コナもかなり綺麗だな。


 獣人族は皆美人なのか? それによく聞くのはエルフを一目でも見れば惚れずにはいられないと言う程だし是非一度拝んでみたいものだ。


 そして、村を見回っていると声を掛けられた。


「おーい、デグさん!」

「おーう。どうした?」


 村のお年寄りが声を掛けて来た。


「今日はシク様居ないのかい?」

「あぁ、今日は分かれて見回っているから居ないな」

「そうかい、残念だね……ところで、そちらさんは?」


 先程まで寂しそうにしていた表情を一変させて、鋭い目線で睨み付ける様にネークとコナを見る。


「あ、あぁ。この二人は昨日この村で受け入れた、ネークとコナだ」


 すると、二人は自己紹介と挨拶をする。


「ハッ! アンタ達みたいな野蛮人はこの村には要らないよ!」


 急に騒ぎ出す、お年寄りに少し圧倒される。


「な、何を言うんだ! 野蛮なのはアンタ達人間族だろ!?」


 コナが言い返す為に前に歩こうとするがネークに止められる。


「ネーク、どきな!」

「コナ、ダメだ。ここで騒ぎになったら皆んなが困る、いいね?」


 一瞬だけ、普段物腰が柔らかいネークの表情が怒気を含む様に変わった。

 コナはそんなネークを見て、怒りを収める。


「わ、分かったからアタシにそんな怖い顔しないで……」


 すると、ニコリと笑顔に戻りコナに笑い掛ける。


「あぁ、すまない」


 そんなやり取りを気にもせずお年寄りは好き勝手な事を言っている。


「大体、アンタ達野蛮人と同じ空気だってアタシは吸いたく無いよ!」

「おいおい、なんでそんなに嫌うんだよ。シクさんだって同じ獣人族だぞ?」

「こんな奴らとシク様を一緒にしないでおくれ! シク様は本当に心優しい方なんだよ……なんかの罰で野蛮人の姿に変えられたのさ!」


 言っている事がメチャクチャだな……

 だが、年寄りは本当にそう思ってそうだ。


 それから、お年寄りを落ち着かせて俺達は見回りを再開する……



「二人共、すまない……」

「はは、良いさ。あんな態度は慣れているからね。俺達は気にしない」

「人間族全員が、あんな態度を取る訳じゃ無いとも知っているさ!」


 ネークとコナは快く許してくれる。


「それにしても、シク様は凄いね。あんな頭の固いお年寄りにも認められているなんて」

「本当だね、同じ獣人族としてアタシは、なんだか誇らしいよ!」


 二人は嬉しそうに話し合う。


「あぁ、シクさんはなんか不思議な人なんだよな。もちろん最初は二人みたいな態度を取られていたんだが、何故かいつの間にかあんな感じになっていたな」

「それに、ベムさんもシク様を崇拝しているッス!」


 シクさんの、あの不思議な雰囲気は何だろうな……

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