第237話 残り三秒……

「ロピ、ツェーンショットを頼む」

「分かった!」


 新しいスリングショットを構えるロピはカウントを数え始めた。


「1……2……3……」


 ロピがカウントを進めるたびに小石からバチバチと音が鳴り始める。


 だが、中型は相当ロピの事を警戒しているのか、奇声を上げ待機していた小型達を動かす。


「皆さん、小型が来ますよ!!」


 マーズの言葉に盾を構える者、剣を握る者がそれぞれ腰を落とし戦闘態勢に入る。


「アトスさん、こちらはあまり気にしないで、変異体のサポートに集中してください!」

「あぁ。そうさせて貰おう」


 俺は、最低限のサポートだけ意識して、変異体と中型の戦いに集中する。


 中型は変異体の攻撃が自身に効かないとわかっているのか、本気で避ける気は無いようだ。


「その余裕が命取りになる事を思い知らせてやるぜ」


 俺は変異体の攻撃するタイミングを見計らうが、狙いがなかなか定まらないのか中型の攻撃を一方的に喰らうだけである。


「防御の方も、もちろんサポート万全!」


 青いラインを変異体の下に敷いて中型の攻撃から守る。

 スピードが無い分変異体は防御力が強いのか、俺がサポートする事により中型からの攻撃を完全に防いでいる。


 中型は、いきなり自身の攻撃が効かなくなった事に苛立ちを覚えているのか、何度も変異体に攻撃を繰り返していた。


 そして、その苛立ちは変異体の攻撃を避けるのをやめてしまうくらい募っていた……


「へへ、完全に油断しているな」


 現在の中型は変異体の対面におり、変異体の攻撃を避けようともせずに、自身の攻撃を優先させていた。


 お互いの攻撃が効いていない、均衡した状況を崩してやるぜ。


 俺は、変異体の攻撃に合わせる様に、次は赤ラインを敷いた。


「アタック!」


 スキルで強化されたトゲが中型に向かって放たれる……


 そして、その攻撃は中型に直撃して先程とは比べ物にならない程、中型の外皮に突き刺さったのだ。


「よし!」


 中型は、直ぐに変異体の前から消える様に距離を取る。


「これで、変異体の事も警戒させてしまったけど、結構なダメージを負ったな」


 突き刺さっている、複数のトゲからは中型の体液が漏れ出ている。


「4……」


 そして、ロピのカウントが四秒を超えた辺りで中型がこちらに顔を向ける。


「リガス、そろそろ来るかもしれない」

「ほっほっほ。全力で防ぎます」


 俺は、リガスにある事を試して貰う事にした。


「出来そうか?」

「ふむ。なかなか面白い事を考えますな。挑戦してみましょう」


 リガスが盾を構えて、中型を待ち構える。

 変異体は中型にトゲを飛ばすが先程と違って、トゲ全てを避ける様になった。


「5……」


 ロピの持つ小石からは、既に目に見えて電気が帯電している。


 そして中型はロピのカウントが5秒に差し掛かった時こちらに、目にも見えない速さで向かって来た。


「カネル!!」


 最初の一撃を受け切るリガス。

 続いて二撃目の尻尾による攻撃が来る前に第二の盾を発動させる。


「オーハン!!」


 そして、ここで俺が先程頼んだある事をして貰った。それは、オーハンで吹き飛ばす方向を変える事だ。


 リガスが盾の向きを少し変えて変異体に向けると、中型がオーハンの効果で変異体に向かって吹き飛ばされていく。


 変異体は自身の方に飛ばされて来た中型目掛けて、トゲを飛ばす。


「アタック!」


 俺のスキルで強化されたトゲは中型に突き刺さる。


「ほっほっほ。成功しましたな」

「あぁ、流石リガスだ!」

「いえいえ、アトス殿こそ良い考えでしたな。これで、これからの戦略が広がりましたぞ?」


 変異体の攻撃をモロに食らった中型だが、それでも動ける様で身体の至る場所にトゲが刺さり体液が漏れ出ていながらもロピを止める為に、再び向かって来た。


「皆さん、中型が来ます! 全員で防御を!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」


 小型を相手にしていた一同が、中型の攻撃からロピを守る様に盾を構える。

 小型達は中型の邪魔にならない様にと一斉に離れていく。


「6……」


 あと四秒……


「皆さん、来ます!!」


 変異体の攻撃で大分スピードも下がって来ているのか、リガス以外でも目で追える様になった。

 だが、それでも通常では考えられない程の速さで移動する為反応するのがやっとである。


「ガード!!」


 俺は、盾を持ち中型を待ち構えている者達に青いラインを敷くと、直ぐ様中型が目の前に現れて尻尾を横になぎ払う様に攻撃をして来た。


「クッ……」

「絶対に攻撃は通さねぇーぞ!」

「オイラ達をなめんな!!」


 全員、既にボロボロで立ち上がっているのが辛い状況だと言うのに、なんと中型の一撃を受け止めたのである。


「7……」


 あと三秒……


 中型は俺達に一撃を止められたが、冷静であった、更に一回転する様にしてもう一撃、俺達全員を巻き込む様な動きをして、尻尾によるなぎ払いをして来たのである……


 先程よりも回転力がある分、この一撃は受け切れないだろう……

 リガスも、まだ時間の都合でカネルが使用出来無い状況である。


 クソ……あと三秒だったのに……

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