第231話 シクとの再会
あれ……? ここは何処だ?
俺は何やら暗い場所に一人、座り込んでいた。
「確かロピとチル、リガスが中型に喰われそうだった所までは覚えているけど
その先が……」
何やら先程から左腕が痛いが理由が分からない。
そしていきなり、地面から凄まじい衝撃を受け、俺は目が覚めた。
「アトス!! 逃げろ!!」
シク!?
目が覚めて目の前には何故かシクが居た。
「小型だ!! アトス早く逃げるぞ!!」
……ぁあ……まだ、夢の中か……。
これは、以前俺が寝てしまった事が原因でシクがモンスターに喰われた日だ……
「アトス、逃げるぞ!」
「あ、あぁ!」
そこには、まだ小さい時の俺が居た。
どうやら、第三者視点で俺はこの夢を見ている様で身体を動かしてシク達を助ける事も出来ず、ただあの日の出来事を見せ付けられている……
「何をボーッとしている!」
シクは俺の襟首を引っ張って逃げ出す。
だが、モンスターとの距離はとても近く俺は体力が尽きた時点で食われるだろ……。
そう言えば、この時はスキルも無かったし体力も無かったよな……
しかし訓練のお陰か、小さい俺はしっかりとモンスターの動きを先読みしている。
この時から、俺って結構先読み出来てたんだな……
「アトス、どうだ? 先読みは出来そうか?」
「大丈夫だ! 問題無く出来ている。だけど、俺の体力が尽きたら追いつかれる!」
「……」
シクは苦虫を潰した様な顔をする。
この時に、今の体力と力があればな……モンスターの一体くらいシクと協力して逃げ切れただろうな……
必死に逃げる二人を見ていると、もどかしい気持ちになるが、身体が動かない為、どうする事も出来ない。
「アトス、私が小型の注意を惹きつけてみる」
そういうと、シクは拳に炎を纏わせて小型の死角に回り込み攻撃を試みた。
鈍い音が鳴ったが、小型は全く効いてない様だ。
だが、シクが攻撃した後はシクに狙いを定め追ってくる様になった。
シクのスキルは武器強化ではあったが、Dランクと言っていたから能力的には弱い筈なのに、今思い出しても、そこらの冒険者より全然強い。
流石に一人で小型を倒し切る攻撃力は無いにしても、スピードや格闘技術は相当なモノだと思う。
下手したら、チルの格闘技の先生であるグインより強いとさえ俺は思うのはシクを神格化しているからだろうか?
それから、しばらく逃げ続けているが、小型はずっと追い続けてきている為、小さい俺がそろそろ体力が限界の様だ……
「はぁはぁ」
「アトス、平気か?」
「はぁはぁ……、大丈夫だ……」
「……」
シクが再び思いつめた顔をしている。
俺自身が居なかったら、シクは小型を巻いて逃げ切れていた筈だ。
だが、俺がいる事によってシクは置いていけなかったんだよな……
この時は、何で俺を置いて逃げないんだよ!! って思ったが、ロピとチルを育てる様になってからは、シクの気持ちが痛い程分かる……
「シク! 俺が小型を惹きつけて逃げるから、シクは全力で別の方向に逃げてくれよ! シク一人なら逃げ切れるだろ!」
今まで大切に育ててくれたシクだけは絶対守りたいとこの時、思っていたな……
「まったく……。お前って子は。本当に立派に育ってくれて誇りに思うよ。」
はは、この時初めてシクが笑った顔を見たっけな……うん。我が母親ながら美しい!
やっぱりシクは世界一綺麗だな!!
「アトス、お前は私の宝だ。あった時から。そしてこれからも」
シクは慈愛に満ちた顔で俺の方に向きながら言う。
「お前と過ごしたこの十年間は本当に幸せだった。出来る事ならずっと見ていきたかったが、どうやらここまでのようだな……」
クソ……この時に今の力が有れば、シクは……
「アトス、これからも訓練を続けろ。そして、誰よりも幸せに生きてくれよ……」
シクは最後にもう一度笑ってから、いつもの様に鋭い表情になり、小型に向かって逆走した。
そしてシクが拳に炎を纏わせて小型を殴る。シクの纏う炎は今まで見たどの炎より大きく熱かった。
「小型風情が! 私の宝物を傷つけるんじゃない! こっちに来い!」
そう言って、シクは小さい俺とは別方向に向かって、小型を引き連れながら逃げた。
「シ、シク! 待ってくれ! 置いていかないでくれ!」
「アトス。私の宝物。幸せになれ……」
シクが、小さい俺を置いてモンスターと一緒に俺の方に向かって走ってくるのが見える。
シク!!
声が届く訳が無いのに、どうしても叫んでしまう。
すると、何故かシクはこちらをジッと見ていた。
「アトス、諦めるな」
!?
「お前は、いつも寝坊助だったからな……早く起きろ。お前を必要としている仲間達が待っているぞ」
な、なんだよ……
シクが何故か見えない筈の俺に向かって話し掛けて来た。
そして、その瞬間今までの事が一気に頭の中で再生される。
「ロピ! チル! リガス!」
「やっと思い出したか……」
そこには、ジト目をしたシクが呆れ笑いの様な表情を浮かべていた。
「早く行ってやれ」
「で、でも……」
「私の事なら大丈夫だ」
「だ、大丈夫じゃないんだよ! この後シクは……」
「ふふ、大丈夫だ」
この先で起こる事を理解していないシクは不敵に笑い強がっている様だ……
「お前は、自分が生き残る事を常に意識していろ。私はどんな時でもお前を守ってやるから安心しろ」
そういってシクは離れていく。
「どんな時でもって……もうこの世に居ないじゃないか……」
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