過酷な場所で生き抜く為に

第230話 姉の凄さ

「ふむ。どうやら変異体も戦闘態勢に切り替わった様ですな」

　リガスが言った様に変異体は先程までと明らかに雰囲気が違った。

　中型に吹き飛ばされた事により多少距離が空いた為、変異体は自身に生えている刺を飛ばし始める。

「皆さん、遠距離攻撃が来ますので、避けてください！」

「ッチ、簡単に言ってくれるわい！」

「ヒィィィ！？」

　三班も含めて、全員が必死に来た攻撃を避ける。

「チル様、大丈夫ですかな？」

「うん。アトス様の事をモンスター達に一切触れさせない！」

　宝物を扱う様に丁寧に私はアトス様を背負い、なるべく振動を与えない様に遠距離攻撃を避ける。

「チルちゃん、キツくなったら変わるから言ってね！」

「うん、ありがとう。でもまだ大丈夫！」

「ふふ。流石チルちゃんだね」

　姉さんに褒められて嬉しかった私はより一層アトス様を守る事に集中する。

　アトス様が中型に食べられた時、姉さんはとても冷静であった。

　私は頭が真っ白になったが、姉さんはアトス様が中型に食べられても攻撃する為のカウントを数えていた。

　恐らく姉さんが中型に雷弾を撃ち込まなかったらアトス様は完全に食べられていただろう。

　それに、姉さんが居なければ私はその場から動けなかったと思う。

　やっぱり、私のお姉ちゃんは凄い！

「私も頑張らないと……」

「ほっほっほ。チル様が戻ってきましたな」

「私の妹なんだから当然だよ！」

「ほっほっほ。そうですな」

「頑張っている姿も可愛いよねー！」

　姉さんと、リガスが私の事を褒めているのが聞こえ恥ずかしなった私はモンスター達の戦いを見る。

　人間とは違って変異体の攻撃を避けれないらしく次々と刺が突き刺さっては倒れていくのが見える。

「ふむ。どうやら小型は変異体の攻撃に耐えられそうに無い様ですな」

「そうだねー。中型はー？」

　中型の方を見てみると、刺が外皮に突き刺さっており、必死に耐えている様に見える。

「このまま、変異体の攻撃で小型が減っていけば……」

　マーズは隈なく周囲を観察して逃げられるスペースが無いか探している。

　他の者もマーズが何を考えているか分かった為逃げられる場所が無いか確認するが、やはりまだまだ小型が居て逃げられそうに無い。

「こ、これ決着が着いちまったら、どっちにしろ変異体から逃げられなくなるんじゃ無いか？！」

　誰かが呟くが、そうはならなかった……

　変異体の攻撃を必死に耐えている様に見えた中型達だったが、瞬きをした瞬間変異体の前まで移動し、左右から尻尾により挟む形で攻撃をしていた。

「な、なんだ、あの早さは！？」

「は、早すぎる……」

　中型の尻尾による攻撃を受けた変異体は、かなりのダメージを負ったのか、口から何やら液体みたいなのを吐き出した……

「これ、中型が勝つのか……？」

「ま、不味いだろ。中型達が勝ったら再び囲まれちまうよ！」

　中型二体による攻撃を受けた変異体は苦しいながらも、直ぐに刺を飛ばして攻撃を仕掛けるが、又もや一瞬で移動した中型に避けられてしまう。

「ダメだ。変異体の攻撃が全然効いてねぇ！」

「つ、強すぎる……」

　中型の突然の成長に変異体は今まで生きてきて初めて恐怖を感じたのか、ジリジリと後ろに下がり始める。

「おいおい勘弁してくれよ……せっかく此処まで頑張ったのによ！」

　逃げる姿勢を見せる変異体に対して、中型は自分達が上だと言う事を悟った様に見える。

　変異体は逃げる為に刺を飛ばし牽制しながら後ろに下がり始めるが、今の中型に距離は関係無い様だ。

「まただ！？」

「いつ、動き出したのかさえ分からねぇーよ……」

　また、消えたと思ったら次は変異体の真後ろに中型達が姿を現していた。

　突然後ろに現れた事に驚いた変異体は自身の刺を無造作に全方向目掛けて飛ばし始めた。

「皆さん、また来ます！！」

　流石に慣れてきたのか、危なげなく全員が刺を避けた。

　そして中型達は何個か刺が当たり身体に突き刺さっているが、ダメージを受けている様には見えない……

「マ、マーズ！　どうする！？」

　三班がマーズの指示を待つ。

「……」

　マーズは周囲を確認するが、変異体の攻撃で大分小型が減ったものの、私達が逃げるには、まだまだ多い様で焦りの表情が生まれる。

「い、今はまだ動けません……」

　他の者も、それは分かっているのか押し黙るしか無かった。

　変異体と中型の戦いはまだまだ続いている様であるが、それは最早戦いとは言えない状況になっていた。

「このままじゃ、次は俺達だぜ……？」

　変異体は中型達に一方的に攻撃されていて、基本は攻撃を叩き込まれて直ぐに素早い動きで距離を取っている様だ。

　変異体は攻撃の為中型に対して必死にトゲを飛ばしては居るが、ダメージが無く。

　中型達の攻撃により変異体には徐々にダメージが溜まっていき、動きが鈍くなって来ている。

「ウッ……？」

　するとその時、背中でアトス様が動いた感触がした。

「アトス様！？」

　顔だけを後ろに向きアトス様の様子を見ると、苦痛な表情を浮かべながらもハッキリとした意識で話し始めた……