第204話 危険地帯 2
ドワーフの村を立ってから六日目の朝を迎える。そして危険地帯に入ってからは二日目だ。
「今日も何事も無く終わればいいが」
私達は歩き出す。ここら辺に来ると、私以外の者達も流石にモンスターが出現しない事に対しておかしいと感じ始めた様だ。
「なぁ、俺らは兵士達に騙されているのか?」
「だな……。まだ一度もモンスターを見てないぜ」
「これで、本当に宝箱貰えるのかよ!」
「お前は貰えねぇが俺は貰うぜ!」
参加者が不安がっているのも無理は無いだろう。
「何なんだ……? 何故モンスター共が出ない……?」
リンクスの方を盗み見すると、独り言の様にブツブツ言っている姿が見える。
「この状況を知っている者は誰も居なそうだな」
私達にとっては歓迎出来る状況でも、リンクス達にとっては喜ばしい事では無いのだろう。
「流石にこの人数相手に宝箱を渡すのは惜しいのか?」
恐らく、リンクス達は今回も半分くらいは参加者が減ると思っていたのだろうが、予想が外れてどうすれば良いか困惑している様だ。
朝に出発してから昼までは特に何も起きずに経過したが、やはり危険地帯の為、とうとうモンスターが姿を現した。
それはお昼を食べ終わり少し経ってからの事だった……
「モンスターが現れたぞーー!」
違う班からの掛け声に対して、直ぐに反応を示して私達は声の方に顔を向けると、そこには小型が一体居るだけであった。
たが、初めて出現した小型に参加者一同は殺到する様に集まり攻撃を仕掛ける。
「やっと出やがったか、ソイツは俺の獲物だぜ!」
「うるせぇーな! 早い者勝ちに決まっているだろ!」
次から次と攻撃をするので、小型はあっという間に討伐されてしまった。
「ッチ、物足りねぇーぜ」
「何が危険地帯だよ。安全地帯の間違ぇじゃねぇーのか?」
「こんなのに、兵士や前回の参加者は苦戦させられたなら、相当弱いんだな」
「「「「「あはははははは」」」」」
好き放題に言う参加者達に多少の怒りは覚えるが、今の私は無事にドワーフの村に帰る事だけに集中している為、直ぐに周囲の警戒に集中する。
だが、私と違って、リンクス達兵士は二回も失敗しており、その事を馬鹿にされたと感じたのか、とても凄い形相で参加者達を睨んでいた。
そこからは、チョクチョクモンスターが現れる様になったが、やはり前回と比べると圧倒的に少ない。
しかも一体ずつしか出て来ないので難なく倒せてしまう影響で、その内参加者達は警戒をしなくなってきた。
ここまで、モンスターが現れないなら警戒しなくなる気持ちも分かるが、兵士達からしたら雇っている状態の為、直ぐに注意していた。
「おい! お前らもっと警戒しろ。遊びじゃ無いんだぞ!」
「へへ。はーい」
「任せて下さいよー。これでも真面目に警戒しているんすから」
「俺に掛かればモンスターなんて直ぐ倒せますから兵士さん達は気軽に身構えててください」
兵士達の注意喚起も、右から左へと聴き流している様で効果が無さそうだ。
「ッチ、これだから野蛮な冒険者共は好かん」
その様子を見ていたリンクスも顔を歪ませて一人愚痴る。
「ドワーフ達はどうしているかな?」
前回の遠征で私達エルフ族以外にもう一つ生き残った種族であるドワーフ族を見ると、どうやら私と同じ考えなのか戦闘には参加せず体力を温存している様だ。
「あの状況を経験したなら、当たり前の行動だな……」
ドワーフ達は、周りの参加者達が騒いでいる中常に周囲を観察し何か有ればいつでも動ける状態を取っていた。
その光景は他から見たら、少し異様に見えるだろうが、そのドワーフ達を見て、参加者の中にも何か気付く者達がいる様だ。
「一班は、ハズレかもな……」
私はリンクス班である、一班のメンバーを観察するが強そうな者は居ない。
恐らく、総合力で一番強い班は副官率いる二班だろう。ドワーフ達で固めてあり前回の参加者でもある。
「まぁ、いざとなったら私一人でも逃げるがな」
そして、日が落ちて来た為野宿の準備に入る。結局はモンスターも小型二体しか現れなかった為、私達は前回より速いペースで進んでいる様だ。
「明日は、とうとう三日目か……」
三日目と言うと、前回撤退した日でもある。ここからは、中型も出現する可能性が大きいので、より一層警戒して進むつもりだ。
小型一体なら一人で討伐出来るが、流石に中型になると、私の攻撃でも通るか不安である。
流石にこの人数なので中型が出たとしても倒す事なら可能だろうが、一人でも捕食されてしまったら、モンスターの成長次第では、全滅する可能性だって大いに考えられる。
「この、モンスターの少なさは何かある……明日からはより一層注意が必要だな」
そして、私は明日に備えて寝る準備を行い、寝床に着く。その途中で、またリンクスが私を自分の寝床に誘いに来たが断った。
そろそろ斬り刻んでやりたいが今は我慢だ……。
こうして、二日目が終わる。何事無くここまで進んで来れたが、三日目で他の参加者達は目が覚める思いをする事になる……
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