第203話 危険地帯

「全員起床!」


 朝日が昇るか昇らないかくらいの時間帯に全員が起き出す。


「直ぐ出発の準備を!」


 副官の声で次々と起き上がる者達。


「今日からか……」


 そう、今日から危険地帯に足を踏み込むのだ。前回はここから、三日程進んだ先でモンスターの集団と遭遇して撤退する事になった。


 私の感覚的にモンスター達がいきなり増えただけでは無く強さも増していた気がする。


「ここからが本番だな……」


 何故か分からないが結局ドワーフの村を出発してから、ここまで来る途中で一度もモンスターとは遭遇しなかった。

 たまたま運が良かったのか、それとも何か原因があるのか……


「よーし、準備が出来たな? これから班編成を行う」


 前と同じく五班編成で各組20人程で編成される事になった。


「ふっふっふ。シャレよ感謝しろ。また私と同じ班だぞ?」


 今回も前と同じくリンクス班に編成された私だったが奴の絡みつく視線に嫌気が指す。


「お前は強いだけでは無く、とにかく美しい……。何かと重宝してやれるがどうする……?」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべ上から下まで何度も視線で往復しているリンクスを見て斬り刻んでやりたいが、自分をなんとか抑える。


「いや、他の参加者と同じ扱いで構わないが、あの宝箱の約束だけは守れ」

「ふん! 後悔するなよ」


 私の態度が気に食わなかったのかリンクスは顔を背けた。すると、直ぐ様他の人間族に声を掛けられる。


「な、なぁ。俺は一班に編成された者なんだがよろしくな」


 視線をズラすと、そこには何人もの人間族が私を観察する様に見て来る。私は、どんどんと心が冷めてくるのが自分でも分かる。


「早くトラクに会いたい……」


 どうやら、リンクス班はエルフの私以外は全員人間族で固めたらしい。これは益々油断しない様にしないとな。


「それでは、班の編成も完了したのでこれから出発する! ここからはモンスターの出現率が上がるから気をつけてくれ!」


 副官の号令の元、各班が等間隔の距離を開けて進む。


「さっき、副官がモンスターが多くなるとか言ってたが大丈夫かね?」

「ハッ! どんなにモンスターが出たとしても俺がぶっ倒してやるよ!」

「お前には無理だ。この俺様が倒す」

「お前ら若造に何が出来る、歴戦の戦士である、俺らがぶっ潰す!」


 まだ、一度もモンスターと戦っている所を見た事無いが、凄い自信だ。私から見たら、とても強そうに見えないが実際に戦闘を見てみるまでは分からないな。


「それにしても、前回の奴らはだらしないよな。危険地帯に入って三日後に退却とか」

「あははは、本当だぜ。しかも生き残ったのは半分以下なんだろ?」

「あぁ。エルフ族とドワーフ族しか生き残らなかったらしいな」

「最近すげぇー噂になっていた雷弾達も結局はただの噂だって事だな」

「ちげーねぇー!」


 このジャングルの怖さをまだ知らない者達は次から次へと己が如何に勇敢なのかを大きい声で話し続ける。それに何故か私の方に聞こえる様話す時はこちらに口を向けながら話していた。


「全く……モンスターの気配が読み辛くなる」


 私は常に周囲の状況を確認しながら、いつでも反応が出来る様に歩き続ける。

 だが、やはりおかしい点だらけである。


「モンスターの気配が無いな……」


 前回の遠征時は危険地帯に入った瞬間から、あちこちモンスターの気配を感じていた。あまりにも気配が多過ぎる為、どの方向にモンスターが居るか分からない程であった。

 しかし、今は全くモンスターの気配が感じられ無いのである。


「何かがおかしい……」


 それから私達はひたすら歩き続けた。


「よし、一度休憩を挟むぞ」


 リンクスの指示により太陽が真上に浮かぶ頃、今日初めての休憩をおこなう。


「いやー、やっと休憩か」

「暇すぎて逆に疲れるな」

「モンスターがバンバン現れれば暇潰しになるんだがな」


 一班の各々が座り込み休憩を取っていた。


「シャレよ、調子はどうだ?」


 リンクスが笑顔で近付いて来る。私は嫌そうな表情にならない様にと極力努めてリンクスに顔を向ける。


「なんとも無いが?」

「水や食い物がある。食べると良い」

「なら遠慮なく」


 干し肉と水をリンクスから貰うが、リンクスはその場から立ち去ろうとしない。


「何か用か?」

「お前は本当に美しいな」

「人間族に容姿を褒められても嬉しく無いな」


 いや、寧ろ反吐が出る。


「ふっふっふ。その態度がまた実にそそられるぞ」

「……」


 リンクスの表情を見ると、まるで獲物を狙うような目で私を見ていた。


 気持ち悪い……


 もし、何も縛りなどが無ければ何発か殴っていたかもしれない。だが、宝箱を手に入れるまで我慢だ……


「村の為……村の為……」


 自分に言い聞かせる様に呟いていると、リンクスは満足したのか満面の笑みを浮かべて戻っていく。


「それでは、またなシャレよ」


 二度と来なくていいと叫びたい気持ちを我慢して、私はその言葉には反応しなかった。


「では皆の者よ出発だ!!」


 こうして、危険地帯1日目も特にモンスターと遭遇する事無く夜を迎える事になった……

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