第107話 トッポの企み

 夜の為、空は暗い。そしてジャングルの木々によって囲まれている為、暗闇はより一層暗く感じる。


 だが俺の周りは松明の火が沢山灯っており夜の筈なのに昼間くらいに明るく感じてしまう。そして先程まで俺の近くにはトッポが居たのだが今は相手側のリザードマン達の場所に移動してこちら側を見ている。


「……トッポどういう事だ?」


 グインがトッポを睨みつけている。


「ハッ! 今の生活に飽きたのさ」

「……どういう事だ」

「刺激も何も無い日常に飽き飽きしててよー。そしたらこっち側の村長に言われたのさ」

「……なにを?」

「村を裏切ってこっちに来い。成功した暁には相応の地位を用意するってな!」


 俺達と話していた時のトッポとは考えられない程顔付きが違う。今は人を小馬鹿にした様に俺達を見ている。トッポとグインが話していると向こう側の村長が会話に参加してきた。


「トッポよ、良くやった」

「立派に勤めを果たしたから頼むぜ?」

「もちろんだ。期待しとけ」

「よぅ! グインお前もこっち来ないか?」

「……何を言っている」

「俺はお前の実力だけは評価しているんだぜ?」


 そう言って、リザードマンと小さいリザードマンが腕を縛られて出てきた。


「あなた!」

「パパ!」


 どうやらグインの奥さんと娘さんらしい。


「お前達! トッポ、お前は何をしているか分かっているのか!」


 グインの口調がいつもと違って強くなる。そしてその様子を見たトッポはニヤニヤ笑いながらグインを見ている。


「はっはっは。お前にもそこまで感情を露わにする事ってあるんだな!」


 そう言ってグインの奥さんを自分に無理やり引き寄せ、抱きしめる。


「うーん。お前の奥さんは良い匂いがするな……」

「や、やめなさい! 私の身体はグインの物です!」

「ママを離して!」


 縛られている為グインの奥さんはトッポにされるがまま抵抗が出来ない。せめての意志なのか顔だけは背けているが、トッポは無理矢理自分の方に向ける。


「前からお前の事が気になっていたんだよ。本当に綺麗だ……」


 トッポは惚けた様な表情をしながら、奥さんの身体を舐め回す様に触っている。相当な嫌悪感があるのか、顔を歪めながらトッポを睨みつけているが、それがまた良いのかニヤニヤが止まらないらしい。そして、それはグインだけでは無く、他のリザードマン達の奥さん達も同じ状況で弄ばれている……。


「「「ギャハハ!」」」

「いやー、お前らの奥さん最高だったぜ!!」

「……コロス」


 そして、我慢が出来なかったのかグインは飛び出す。他のリザードマン達もグイン同様家族が嬲られているのを見て怒りが収まらないのか追い掛ける様に飛び出す。


「グインに続け!!」

「お前ら! 許せねぇ!!」

「ギャハハ! お前ら、魔族無しにこの人数相手に勝てると思っているのかよ」


 そして向こう側のリザードマン達も戦闘態勢を取りグイン達を待ち構える。


「お、お兄さん戦闘が始まったよ!」

「あ、あぁ。チル、リガスの様子は!」

「だ、だめです! 毒が強過ぎるのか目覚めません!」


 チルは相当動揺している。


「死んではないな?」

「は、はい! リガス自身も気絶する前に死ぬ事は無いと言ってました!」


 よし。一先ずは大丈夫だな。だがこの戦闘の場ではいつ飛び火が来るか分からない。今はグイン達が相手側と交戦状態である。


「この状況じゃリガスを安全な場所に運ぶのも難しいか……」

「お兄さん、どうしよう?」


 ロピとチルが不安そうに俺を見ている。


「ロピはリガスの側に居て、敵が近付いてきたら教えてくれ」

「分かった!」

「チルは戦闘態勢だ。俺達に近付いて来る敵を倒して貰う」

「はい!」


 俺達はリガスを中心にして出来るだけ離れないような立ち位置を取り敵を待ち構える。そしてグイン達の方を見るとやはり人数的に劣勢だ。グイン達一人に対して相手側は常に三人程で相手をしている。グインに関しては六人を相手にしている。いくら優秀な戦士だとしても人数には勝てないのか徐々に追い込まれていき今では防戦一方だ。


「お兄さん、なんだかヤバくない……?」

「先生がピンチ……」


 ど、どうする? このままだと恐らくグイン達は保たないだろう。もしグイン達が倒されたら俺達の所まで来るだろう。


 逃げるか……? 流石に見捨てられないか……。だけど、この状況どうする?


「アトス様、先生の事を手伝いに行ってもよろしいですか?」

「あ、危ないよチルちゃん!」


 ロピは慌ててチルを止めに掛かるがチルは行きたいらしい。


「危険だぞ?」

「アトス様のスキルがあれば問題ありません」


 チルの信じきった眼差しを受けてしまうと期待に応えないと! って思ってしまう。


「よし。サポートは任せろ!」

「はい!」

「え! え?!」

「姉さん心配しないで。危ないと思ったら直ぐ逃げて来るから」

「本当に危なかったら逃げるんだよ?」

「うん」


 そしてチルは俺達を一度見回してから戦場に向かって走り出した。


「お兄さんチルちゃんの事守ってあげてね!?」

「当たり前だ!」

「うー。心配だ……チルちゃん無事に帰ってきて!」


 ここからは、俺も集中しないとな! チルは早くもグイン達の所まで到着しそうだ。

 



 

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