第108話 チルの助け

 私はアトス様や姉さん、リガスの元から離れて先生の所に向かっている。


 この様な状況になっている一端の原因は私の為だと思っている。


 トッポが裏切り、作戦自体は相手側に筒抜けだったかもしれないけど、リガスが居ればこの人数でも問題無かっただろう。


 だが、リガスは私を庇う為に毒を受けて倒れてしまった。

 トッポはリガスが私の事を庇うのを分かっていての行動だろう。


「まだまだ、私は弱い……」


 悔しさのあまり、強く唇を噛み締めて血が出てしまっている。私は更に速度を上げて先生達の元に向かう。先生は六人相手に奮闘しているが、やはり数の暴力には勝てないのか徐々に押されはじめた。


 私は六人の内一人を請け負うつもりで攻撃を仕掛ける。


「先生、助けに来ました!」

「……助かる」


 私も先生も口数はそこまで多くない為必要最低限の会話をして戦闘を続ける。先生程では無いにしろリザードマン達は皆戦士の為私が相手を出来る人数は一人が精一杯だろう。


「アームズ……」


 私はスキルを発動させて腕に力を込める。そしてモンスター相手ではない為力を優先するよりも速さを優先させた攻撃をする。


 人間相手なら十分な威力を発揮する筈なのだが攻撃が当たらない。攻撃の度に力が湧き上がってくる感覚がするが、恐らくアトス様のお陰だろう。だが攻撃が当たらなければ意味がない……。


「荒削りだが、なかなか良いセンスしているな。だがその戦い方はお主に合ってないのでは?」


 相手側のリザードマンが素直に感心しているが何やら他の事も言っていたが、私は構わず攻撃し続ける。


「おいおい、そんな連続で攻撃したら保たないぜ?」

「うるさい」


 私は顔や腹部、足元など攻撃を上下に散らしながら攻撃を行うが、やはり経験値の差があり過ぎるのか攻撃が当たる気配が無い。


「嬢ちゃん、人間を相手に戦うのは初めてか?」

「!?」


 その時、リザードマンのテンポが変わった。先程までは私の攻撃を避けるのに集中していたが、今度は攻撃する頻度が増えてきた。


「さて、攻撃はいいが防御の方はどうなのかお手並み拝見だな」


 ニヤリと笑みを浮かべリザードマンは攻撃を仕掛けてくる。私が先程していた様に顔や腹部、足元など上下に攻撃を散らしてくる。最初は対処出来ていたが、フェイントを織り交ぜられてからは急所に当たらない様に防ぐので精一杯だ。


「攻撃程じゃ無いが防御もなかなかだな」

「クッ……」


 そしてとうとう追い詰められて攻撃を食らう……。私は目をつぶりながら痛みが来るのを待ち構えた。


「……痛くない?」


 又してもアトス様のスキル効果によるものだろう。


「流石アトス様です」

「あ? 効いてないのか?」


 アトス様が守ってくれると分かった以上私は攻撃に転じる。


「そんなガラ空きにしていいのかよ!」


 リザードマンが私の腹部目掛けて攻撃をする。だが全く効かない。私はそのまま攻撃をする。


「な、なんで効かねぇ!?」

「アームズ……」


 動揺したのか私の攻撃が当たりリザードマンは十メートル以上ふっ飛ぶ。生きているか分からないが私には関係ない。すぐさま先生の方を見ると、五人になり少しは楽になったのか良い勝負をしている。


「先生、一人倒しました!」

「……見事」


 私は再びリザードマンの一人を請け負うと、攻撃を行う。そして私に一人、先生に四人リザードマンが付き戦う事になる。だが先程と違うのは先生相手に四人では足りないという事だ。

 先生は得意のカウンターを次々に決めて四人をあっという間に倒してしまい、私が相手にしているリザードマンも倒した。


「さすが先生です」

「……お前が来なかったらやられてた」


 そして、私達は仲間のリザードマン達を助ける為に再び走り出すが向こうも先生の事は脅威に思っているのか直ぐに新しい五人が先生に向かって攻撃を仕掛けてきた。


「……くそ」

「手伝います!」

「……頼む」


 そこからは向こうも学んだのか先生には五人、私には二人のリザードマンが付き攻撃を仕掛けて来る。私自身はアトス様のスキルで攻撃を食らわないが、私の攻撃も相手に当たらない状況だ。


「こいつ、なんで俺達の攻撃が効かねぇんだ!?」

「知らねーよ! いいから攻撃し続けろ!」


 向こうもまさか能力向上スキルで防御を上げているとは思っていないらしい。それ程、珍しいスキルで有り、弱いと思われているのだ。そしてなんと言っても私の動きを正確に読んで、発動しているアトス様の技量に私は誇らしささえ持っている。

 私の攻撃は全て避けられてはいるが先程の攻撃でリザードマンをふっ飛ばしたのが印象的だったのか、相当警戒している感じがする。私の攻撃を避ける度に相手の顔から冷や汗が滴り落ちる。


「ク、クソ!」

「おい! 誰か手伝ってくれ!」


 この状況が続くと不利と思ったのか相手は仲間を呼ぶ。そして更に二人ほど来て今では四対一の構図になっている。相手は剣や槍など様々な刃物を使い私に攻撃を仕掛けて来るが全く効果が無いことに不思議そうな顔をしている。



「おい! こいつおかしいぞ」

「なんらかのスキルか?!」

「とにかく攻撃を続けるしかない!」


 効かないと分かっていても攻撃を続けるリザードマン達。私は人数が増えた事により攻撃が当てやすくなった。何度かはカスリさえしたので少しずつだが捉えてきた。

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