第4章

第88話 リガスの手料理

 オークとゴブリンの村を旅立ってから数日が経った。今はリガス特製のお昼を食べている。


「魔族さん、美味い!!」

「リガスの作ったご飯美味しい」

「あぁ、これは美味い……」

「ほっほっほ。お褒めにあずかり光栄でございます」


 この旅に出る前までは、人間族である俺と、獣人族の姉妹のロピとチルで旅に出たが、今はもう一人旅の仲間に加わった。


 魔族のリガスである。リガスはチルに助けられた事に恩を感じて執事になった。


 そして、この執事は何でも出来るのである。主人が快適に過ごせる様にと絶妙なタイミングでお茶を出したり料理を作ったりと完璧である。

 しかも料理がメチャクチャ美味い為今では俺達の専任料理長として腕を振るっている。


「魔族さん、この料理はなんて言うの?」

「それは、モンスターの糞をすり潰して鹿肉と一緒に煮込んだ料理になります」

「「「……」」」


 リガス以外の俺を含む三人は絶句して開いた口が塞がらなかった。


「ほっほっほ。もちろん嘘でございます」


 全く悪びれずに朗らかに笑うリガスに対してロピとチルは近くにある石などをリガスに投げつけるが、全て避けられている。

 この男は、どうやら人をからかうのが好きらしい。


「リガス、主人に向かって嘘はダメ!」

「チル様に少しでもサプライズを与えようと思いまして」


 満面の笑みでチルを見る。


「そんなサプライズは要らない!」

「そうだ! チルちゃんの言う通りだ!」

「ほっほっほ。ロピ殿の料理には本当に入れましたけどね?」

「……え?」

「ほっほっほ」

「ねぇ、嘘だよね? 魔族さんはまた私をからかっているんだよね?」


 ロピがリガスの襟首を掴んで揺さぶっているが、当人であるリガスは涼しい顔をしている。

 リガスは、チル以外には様を付けない。どうやらリガスの中でチルはやはり特別であるらしく、俺達には殿と付けて区別をつけている。


「ロピ殿は、面白いですな」

「うー。お兄さーん、魔族さんに虐められたー」


 そう言ってロピは俺に抱き着く。ここ最近で更に身長や他にも色々大きくなっており、今では身長差はかなりある。俺の身長は全く伸びない……。


 なので、ロピが俺に抱き着くと母と子供、もしくは姉と弟に見える為、俺は何とも言えない屈辱感を味わう。


「姉さん! アトス様に抱き着くのはやめてって、いつも言っているでしょ!」

「ふーんだ! チルちゃんの執事が私に意地悪したのがいけないんだもん!」

「リガスは冗談って言ったんだし、いいじゃん!」

「良くないよーだ!」


 そして、またいつものやり取りが始まり、終いにはお互いホッペを引っ張り合うまでいく。


「お二人は仲が良くていいですな」

「確かに仲は良いが、あれは普通に喧嘩だろ……」

「ほっほっほ。見ていて飽きません」

「お前が原因なんだがな……」


 俺とリガスは少し離れた所で二人のやり取りを見ている。力的にはスキルの差で圧倒的にチルの方が高いが、やはりそこはお互い力を抑えての喧嘩なので安心して見ていられる。


「二人とも、そろそろ出発するぞー」

「チルちゃんが先に手を離すべき!」

「姉さんが!」


 お互い、ホッペから髪を掴みあっているらしいが、次はどっちが先に離すかで揉めている。


「なら同時に離そう?」

「いいよ?」

「「せーの!」」


 そして、お互い髪の毛から手を離さなかった……。


「あー、チルちゃん嘘ついた!」

「それは姉さんもでしょ!」

「チルちゃんの方が先!」

「一緒!」


 やはり子供だ……。


「お兄さーん、チルちゃんが嘘ついた!!」

「ち、違う!」


 今まで決してロピの髪を離そうとしなかったチルだが俺に悪く思われたく無いのか、ロピの髪の毛を解放した。


 ……そしてロピは調子に乗った。


「イェーイ!! 私の勝ちーー! チルちゃんの負けー!」


 痛くは無いのだろうけど、ロピはチルの髪の毛をまるで大縄跳びを回すが如く、ブンブンと回し続ける。


「これが、お姉ちゃん力だ! 思い知ったか!」


 ロピは絶好調である。ケラケラと笑いながらチルの髪の毛をひたすらに回し続ける。


「これに懲りたらお姉ちゃんの言うことは聞きなさーい!」


 そして、チルは手を出した……。


「いたッ!?」


 チルはスナップを利かせてロピにデコピンをする。


「いたッ! チ、チルちゃん?」

「……」

「ご、ごめんね? お姉ちゃん少し調子乗りすぎちゃったかな……?」


 そして、また二人の追いかけっこが始まる。


「うぇーん、チルちゃんが怒ったー」


 当たり前だろ……。むしろロピも良くあそこまで調子に乗れるな。


「ほっほっほ。ロピ殿は面白いですね」

「魔族さん、助けて!」


 ロピはリガスを間に置いてチルと距離を取る。


「リガス、退いて……」


 そして、グルグルとリガスの周りを走り回る二人。二人とも身長はかなりあるが、リガスも大きい為三人と俺が一緒に歩いたら、本当に高低差があって嫌になるぜ……。


「よーし、出発するぞー。二人ともそろそろ仲直りしなさい」

「「はーい」」

「ほっほっほ。さすがアトス殿ですね」


 こうして、三人から四人の旅が始まる。


「とりあえず、無事に家に帰れますよーに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る