第83話 戦闘終了

 魔族は小型に向かって走り出す。先程小型の攻撃が直撃したにも拘わらず、そうとは、見えない程のスピードで走っている。


「ほっほっほ。どうやら痛覚を多少遮断する効果もあるようですな」


 そう言って、魔族は小型の目の前で盾を構えた。


「それでは、第一の盾をお見せしましょうか」


 魔族は構えていた盾を地面に突き刺し唱える。


「カネルッ!!」


 先程まで持っていた大盾が更に大きくなり、魔族の身体をスッポリと隠す。そして、小型が盾に向かい体当りする。

 接触の瞬間金属同士がぶつかり合う様な音が鳴る。

 そして、信じられない事が目の前で起きた。


「嘘だろ……」

「魔族さん、凄い……」


 俺とロピは開いた口が塞がらなかった。なんと魔族は大盾一つと自身の身体一つで小型の体当りを真正面から受け止めたのである。そして今も小型と鍔迫り合い状態を保ったままその場で耐えているのだ。


「──ッチル様! 今ですぞ!」


 俺ら二人とは違ってチルは驚きながらも魔族の言葉にすぐ反応して小型の腹部に再び拳の一撃を打つ為に走り出す。

 そして俺もワンテンポ遅れてスキルを発動する。


「アタック!!」


 俺はチルの下に赤ラインを敷く。


「アームズ……」


 チルは拳を握り込み小型の腹部にアッパー気味の一撃を入れる。


 小型はチルの一撃を食らった後暴れつつ、一度距離を取った。そして暫くの間警戒する様にこちらの様子を見てから脅威度の高いチルに尻尾を使った攻撃をする。

 先程まではこの攻撃を避けるのに必死でチルの攻撃が止まってしまっていたが今回は違った。


「ほっほっほ。薄汚れた虫の分際で主人に攻撃など生意気な」


 魔族は素早く移動してチルに迫って来た尻尾を大盾で受け流す。


「ありがとう! アトス様、連続で行きます!」

「おう! アタック!」


 そして、チルは赤ライン上で連続で小型に向かって拳を振るう。


 俺のスキル効果で強化された攻撃は小型にでさえ相当効いていた。


「いっけッーチルちゃん!」


 チルは同じ箇所に何度も拳を打ち込む。

 小型も必死にチルを引き離そうと攻撃をして吹き飛ばそうとするが、その度に魔族が鉄壁の防御で守ったり、受け流していたり、チルが攻撃を避けたりする。


「ほっほっほ。小型の分際で私の主人に攻撃を通すつもりは無い一切無い!」


 盾で防御する度に硬いもの同士がぶつかり合う様な鈍い音だったり高い音が鳴り響く。

 チルは魔族が防御したり、自身で攻撃を避けたりする度に小型に連撃を放つ。


「こ、これいけるんじゃねぇか?」


 少し離れた場所でオーク族の長であるディングが呟く。オーク族の攻撃は一切効かない為途中からは戦闘の邪魔になる為遠くに避難してもらっていた。


「チルちゃん、頑張れー!」

「獣人の嬢ちゃん、いけ!」


 ロピに続きオーク達までもがチルの攻撃に期待して応援をする。


「ほっほっほ。流石私の主人、人気ですね」

「あんまり、嬉しくない……」

「それではチル様、もう少し頑張れそうですかな?」

「うん!」


 それからは小型に対してチルは何度も攻撃を繰り出す。


 そして、とうとう小型は動かなくなった。


「勝った……?」


 小型が動かなくなりチルは呟く。そしてオーク族達がいきなり騒ぎ出す。


「うぉーー!! 獣人の嬢ちゃんすげー!」

「「あの攻撃はヤバかったよなー、」」

「小型を一人の攻撃で倒すってヤバくね……?」

「だよなー!」


 オーク達は一人で小型を倒した事に相当興奮している。


「ほっほっほ。流石チル様、小型を見事討伐致しまたね」

「チルちゃん! 凄すぎてお姉ちゃん気絶しそうだよ!」


 ロピはチルに抱き着き身体を揺さぶる。


「ね、姉さん痛いよ」

「あ! ごめーん。でもチルちゃん小型倒しちゃったんだよ!」

「チル様は、もっと喜んでもいいと思いますよ?」

「そうだよ! 魔族さんの言う通り!」

「そうかな……?」


 ロピと魔族はチルを褒め称える。そしてチルは恥ずかしそうにしているが、やはり嬉しいのかハニカミながら俯いている。そして俺の所まで早々と来て目を見て言う。


「今回勝てたのはアトス様のお陰です、ありがとうございました」


 チルは頭を深々と下げて俺にお礼を言ってきた。


 なんていい子なんだ……。俺がチルにした事なんて攻撃力を上げるサポートをしたくらいなのに。

 こんなに良い子に育ってくれて嬉しい……。俺は若干泣きそうになりながらも、チルの頭に手を乗せて撫でた。


「えへへ」


 頭を撫でた途端にチルは笑顔になり俺が撫でやすい様に頭の位置を更に下げた。


「うー。いいなー……でも今回はチルちゃん大活躍だったし我慢我慢」


 しばらくの間チルの頭を撫でて居て、やがてチルが頭を上げる。


「アトス様のスキルがあればこそ、あそこまで攻撃力が上がり小型に通用する程の力を得る事が出来ました!」

「そうか。まぁ、今回はみんな頑張ったよな」

「はい。私もそう思います!」

「お兄さん! チルちゃん! 頑張っている中には私も入っているよね!?」

「「……」」

「なんでそこで無反応!?」


 そんなこんなで三人で少し戯れていたら、魔族が会話に入ってきた。


「チル様、そろそろ私の事も紹介して頂ければ」

「リガス! そうだね。アトス様、姉さん、話したい事が!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る