第51話 スラム街脱出、そして……
「おーい、そこの三人、出て行くなら早くしろ! 門を閉めるぞ!」
俺ら三人は人間族の住処を出る為に門に向かっていたが、中型が近づいて来た為、全ての門を閉めるらしい。
「ま、待ってくれ! 俺達も出る」
「早くしろ。もうそこまで来ているんだよ!」
中型が来る方向とは逆の門を開けてくれているらしいが、流石に閉めないとマズイらしい。
俺達以外も、門から次々と出て行き逃げていく人達が居る。
「よし、お前らで最後だな。それでは気をつけて逃げなさい」
そう言って、門番は門を閉め施錠した。
「チ、チルちゃん! 私達スラム街から抜け出したどころか、人間族の住処まで出ちゃったね!」
「うん。姉さん、私達自由だよ」
姉妹はスラム街から出られたのが相当嬉しいのかはしゃいでいる。
「二人とも喜ぶのは安全な場所に着いてからにしようか」
「「はい」」
「とりあえず、走れる所まで走って、中型と距離を取ろう」
俺は久しぶりにジャングルに出たが、やはり普通に進んだら、絶対迷うなと思いつつ、走りだした。
「ロピ、チル。二人とも何か気配とか気付いたら教えてくれ。俺より獣人族の方が気配などを探るのが得意だからな」
「お任せ下さい」
「はーい。何か感じたらお兄さんに言うね!」
俺は結構なスピードで走っているのに、ロピとチルは平気で付いてくる。
それも、そうか。この前も逃げられた時、全力で追いかけたが引き離されたもんな……。
「お兄さん、どれくらい離れるの?」
「俺達の一人が走れなくなるまでだな」
「頑張ります」
「まずはここから離れて。その後は安全に暮らせる場所をみつけよう」
「はーい! なんだか楽しくなってきた!」
「姉さん、命が掛かっているんだから能天気な事ばかり言ってたらダメだよ」
「分かっているよー。でも常に不安な気持ちよりは楽しい気持も大事でしょ!」
「あはは、ロピの言う通りだよ。常に気を張っているのは疲れるから、状況によっては楽しまないとね」
移動しながら、そんなやり取りをしていると、人間族の住処から大きい音がした。
「「「──ッ!?」」」
俺達は走りながら後ろを振り返る。
姿は見えないが、恐らく中型が体当たりをしているのだろう。その音が止むことは無く少し時間を置くと直ぐに同じく大きい音が鳴り響く。
「お兄さん! あれ見て!」
ロピの指した方を見ると、人間族の住処を守っている大岩の一部が崩れていくのが見えた。
「あの大岩すら破壊するのかよ……」
俺は中型の攻撃でも、あの大岩なら防げると思っていた。だが結果は反対で大岩は次々崩れていく。
恐らく、中型の一体なら耐えられたのだろう。だが、二体同時に攻撃された事により大岩が崩れたんだと思う。
……いや、違うな。中型二体どころか、この騒ぎに次々と小型も集まって来ている様だ。
ここからは見えないが中型二体だけでは無く何体もの小型も一緒に大岩に体当たりでもしているのかもしれない。
木々が邪魔で、どうなっているのか見えないが、木々を越すほどの高さの大岩は、次々と崩れて行き、終いには見えなくなった……。
「私達もあそこに居たら危なかったね」
「はい。やはり逃げて良かったです。アトス様、先を急ぎましょう」
「あぁ。まずは生き残る事を優先だ」
俺達は更にスピードを上げて人間族の住処から離れた。
しばらく移動していると、とてつもない気配を察知する。
「「「!?」」」
「え? え? な、何この気配?」
「姉さん、落ち着いて」
「で、でもチルちゃんも感じたでしょ!?」
二人は混乱している。だが俺はこの感覚、前にも経験がある。シクと居た時にも一瞬だけ、とてつもない気配を感じた。
「二人とも、とにかく走るぞ」
その気配の原因はしばらく走ってから分かった。
「アトス様! この先から気配を感じます」
「何か分かるか?」
「いえ、すみません……」
「いや、大丈夫だ。教えてくれて、ありがとう。迂回するか……」
「うーん、お兄さんこの先どの方向にも気配を感じるよ?」
……どうする? 後ろに戻るのは論外だが、進んでも何が居るか分からない。
「二人とも、モンスターか人間か判断出来るか?」
「私は、そこまでは出来ないです」
「私も、ちょっと無理かなー」
「慎重に進むか……。何か危険な気配を感じたら教えてくれ」
俺達はスピードを少し落とし慎重に進む事にした。
「アトス様、この先少ししたら何かいます」
俺達は木に登り様子を見る事にした。
「あれは……人間族の人達だねー」
ロピの言う通り、人間族が二十人くらい集まり移動している。
「アトス様、こちらに何か近づいて来ます」
彼等の仲間だろうか? 一応もう少し離れるか。
「少し離れながら様子を見ようか」
「「はい」」
それから、少し移動して正体が分かった。
こちらに近付いて来たのは小型だった……。
「キャー!!」
「おい! 小型だ! 逃げろ」
人間族の集団は散り散りになる。本来小型なら人数的には余裕で討伐が可能だろう。
だがそれは冒険者に限った話で、大人でも戦闘経験が無い者が二十人集まっても倒す事は難しい。
小型が逃げ惑う人間の一人を捕らえて食べ始める。
「──ッい、嫌だ! 痛い痛い!」
小型に片足を食い千切られて動けなくなった男が助けを呼ぶ。
「た、助けてくれッー! 置いていかないでくれよ!」
その間も男は片足を抑えながら這い蹲って小型から距離を取ろうとする。
だが、小型は呆気なく男に追いつき頭から捕食し始める。
それと同時に又もやとてつもない気配を感じた。
「「「!?」」」
これか……。前から感じていた感覚はモンスターが人間を捕食した時の感覚か。そして、人間を捕食した 小型は、少しの間止まる。
それはまるで、成長を噛み締めるかの様に……そして、その後にまた人間を追いかける。
「二人とも逃げるぞ!」
「そ、その方が良さそうだねー」
「はい」
俺達は小型が他の人間達を追っている間に逃げ出した。
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