第50話 スラム街脱出計画 2
「さて、まずは二人がこのスラム街をどうやって脱出するかだな」
「アトス様の先程の力でどうにかなりませんか?」
「そうそう! お兄さんの、あの力凄かったよねー」
「悪い。そこまで使い勝手が良いわけでは無いから難しいな……」
俺のスキルではこの状況を打破するのは難しい。
「ひとまず、夜になるまで待って、闇に乗じて脱出を試みてみるか」
「はーい!」
「はい」
「チルちゃん、少ないけど荷物纏めよう」
ロピは旅そのものが楽しみなのか、張り切っている。
「うん。姉さん、アレもコレもって言って荷物多くし過ぎないでね」
「そ、そんな事しないよ! や、やだなー、あはは」
「じー」
「そ、そんな事よりお兄さん! さっきの力ってスキル?」
妹の無言の圧力から逃げる様に、ロピがスキルについて聞いて来た。
「そうだよ。俺のスキルは能力上昇だ」
「へー。能力上昇って珍しいのに弱いって聞いていたけど嘘だったんだねー」
「アトス様の力は偉大……」
そう言って、チルはまた俺に向かって祈りのポーズを取る。
流石のチル大好き人間のロピでさえ複雑な表情をしながらチルを見ていた。
「チ、チルちゃん? それするの今後やめない……?」
「姉さんの頼みでもそれだけは出来ない。私はアトス様のお陰で姉さんを地獄から救えた」
「た、確かにお兄さんのお陰で、あの最悪の奴から縁が切れたけど……」
「私が諦めて神頼みしたらアトス様が来て助けてくれたって事は、アトス様は恐らく神様の遣いなんだと思う」
「あはは……、私の妹が壊れた……」
それは流石に言い過ぎだろ……。
チルの考え方はトンデモ理論だな……。
この子頑固とか言ってたけど、もしかしてずっとこの調子が続くのか?!
そんなやり取りをしていると、いきなり鐘の音が辺り一体に鳴り響く。
その音は時間などを知らせる音と言うよりかは警告音の様に短い感覚で何度も鳴る。
「なんの音だ?」
「ア、アトス様。これはモンスターが近づいて来た合図です」
「あぁ、そうなの?」
「お兄さん、落ち着いているねー」
ここに来る時に見たが、あの鉄壁は小型が何体来ても平気だろう。
そんな事を考えていると、スラム街の出口近くに居た男が叫ぶ。
「お、おい! 門番がいねぇーぞ!」
一人の男の言葉に周りが一瞬でざわつく。
「門番がいねぇーなら、お、俺はスラム街から出ていくぜ。お前らも来るなら今だからな!」
そう言って男はスラム街から出て走り去って行く。
それを見た住人達も次々スラム街から出ていく。
少し様子を見て居たが、門から出ていく人はどんどん多くなって来る。
これはチャンスだッ!
「ロピ、チル! 俺達もこの流れに乗って逃げるぞ!」
「「はい」」
俺達も、スラム街の住人に混じり門を潜り抜ける。
スラム街を出ても、あの鐘の音は鳴り響いていた。
「凄い慌ただしいな」
「はい。みんな大荷物を背負っていますね」
「人間族の住処から逃げるつもりかなー?」
何故だ? 小型程度なら逃げる必要無いと思うが。
「少し聞いてみるか」
「それがよろしかと」
「なんか、少し変だもんねー」
住人の中には地面に座り込んだり、いつも通りお店を開いたりしている人もいる。俺は、お店の人に近寄り状況を確認してみた。
「あの? モンスターが攻めてきたんですよね?」
「お? 兄ちゃん聞いてないのか?」
「あの鐘が鳴っている以外は何も」
「どうやら、中型がこっちに攻めて来たらしいんだよ」
「「──ッ中型!?」」
ロピとチルが驚いた顔で呟く。
「あ? なんだこの獣人。兄ちゃんの奴隷か?」
「ええ、その様な感じです」
実際は違うがここで否定しても角が立つだけだし適当に誤魔化した。獣人が声を発した事に気分を害したのかお店の人はイラついた表情をしながらロピとチルを見た。
俺はその視線を遮る様に立ち位置を移動して再度尋ねる。
「中型が来たとしても、ここの強固な守りなら、なんとかなりそうですが?」
「あぁ、中型の攻撃も恐らく耐えられるだろう。だが今回は二体同時にこちらに向かって来ているらしい」
二体!? あのデカさのイモムシ二体の攻撃を受けたら、流石にここの強固な守りでも分からないな……。
「だから、住民の方達は荷物を抱えて?」
「そうだ。ここが破られると思った奴らはモンスターが来る前にココから出ていくんだと」
「確かに。もし突破されたら食われるだけですもんね……」
「あぁ。だが年寄りや俺みたいに店に愛着がある奴らや、何かしらの理由でココから離れられない奴もいるからな、守りが壊れない事を祈るぜ」
どうやら、ここの住人の半分くらいはここに残るらしい。
「兄ちゃんも逃げるなら早く行きな」
「はい。ありがとうございます。あの、一つお願いがあるんですが良いですか?」
「なんだ?」
「もし、冒険者のデグとベムという人間に会ったら、アトスは無事に逃げたとお伝え下さい」
「知り合いか? 会えたら伝えよう」
「ありがとうございます」
お店の人と話していると、とうとう鐘の音も消えた。
「そろそろ、ヤバイぞ兄ちゃん。中型が近いのか鐘鳴らしの男も逃げたらしい。早く行かないと門が閉まるぜ?」
「はい。ありがとうございました」
俺ら三人は頭を下げて、門に走り出す。
「俺達はココから更に人間族の住処を出るよ」
「「はい」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます