第46話 戦闘開始

 ロピに追いついた先には、あの男が居た……。


「あ?──ッなんで、お前がいんだよ!!」


 男は先程ボコボコにした奴が、また自分の目の前に現れてイラついているらしい。


 コイツこそ、なんでここに居るんだ?!


「ガキ! まだ足りねぇのか?」


 男が大声で俺に向かって言葉を放つ。俺はここ最近、この男に何度も殴られたり蹴られたりした為か、身体が勝手に強張るのが分かる。


 だが、今回はココで引くわけにはいかない。


「──ッうるせ! お前に関係ねぇーだろ」

「あるんだよ! コイツらは俺の物なんだよ!」


 そう言って、男はチルの首に腕を強引に回し自分に引き寄せる。


「うぅ……」

「──ッチルちゃん!! やめて!」

「ギャハハ! だったらする事は分かっているんだろ?」


 ロピは諦めた表情をして、服を脱ぎながら男にゆっくり近づく。

 そして、一瞬俺の方を見て小声で俺に言う。


「あはは、お兄さんの事騙したからバチが当たったんだね。こんな事言えた義理じゃないけど、さっきの計画チルちゃんだけでも連れてって!」


 そう言って、ロピは男の方にゆっくりと歩いて行く。


 その歩く様子は悲壮感が漂っており、とてもじゃ無いが、このまま逃げようなどは考えも付かない。


 どうする?! って迷っている場合じゃねぇーよな!


 俺は無理だと分かっていても男に向かって走り出す。ロピは俺が抜き去った事に驚き目を丸くしていた。


「──ッガキが! 何度やられれば気がすむんだよ!」


 弱い者が何度も立ち向かって来るのに、かなりイラついている様だ。


「ロピとチルはお前の物なんかじゃねぇ!」


 俺はスライディング気味に男の足元を蹴るが、男はスンナリと避けて俺にカウンターが飛んでくる。


「グフッ」

「生かしてやったのに、バカかテメェは!」


 俺の動きが止まった拍子に男は次々と攻撃を浴びせてくる。

 前に殴られた時より攻撃が重い?!


「何驚いた顔しているんだよ! 前は手加減してやってたんだよ。ギャハハ」


 男が言っている事は本当らしく、前に殴られた時より身体の芯に残る攻撃だ。


「オラオラ!」


 顔面はボコボコに腫れて、目は半分塞がっている。


「や、やめて! お兄さんを虐めないでよ!」

「あ? ロピ、テメェ! こんなガキ庇っている暇があるなら、俺の相手をしてればいいんだよ!」

「キャ!!」


 男はロピに平手打ちをする。


「ね、姉さん!! お前!! 許さない!!」


 姉が攻撃された事に怒ったのか、妹のチルが男に向かって走る。


「お前も、このガキと同じく教育が必要らしいな」


 男の平手だった手が握り拳に変化した。チルの事を殴るつもりか……。

 俺も男に向かって殴りに行きたいが、身体が動かない。


 ……く……そ……。また俺はシクの時と同じで見ているだけしか出来ないのかよ……。 


 そんなの……嫌だッ! 俺は諦めねぇーぞ!


 半分塞がっていた目蓋を痛みも気にせずに俺は目を見開いた。


 チルは男に殴られる瞬間!


 集中しろ……集中だ。


「おい! ロピ、お前の妹が殴られる所見とけよー。ギャハハ」

「やめて! 何でもするからチルちゃんだけは!」

「姉さんを虐める奴は絶対許さない」

「お前見たいな獣人のガキに何が出来るんだよ、ギャハハ」


 ……集中。……集中。……集中。


「ガード!」


 俺は儀式から初めて、スキルを発動させた。


 チルが男に向かって走るラインを予測して、そのライン上に青いラインを敷く。


 カカと同じスキルの筈だが、カカとはスキルの範囲が全然違った。

 カカの青いラインは十メートル程の長さしか無かったが、俺の青ラインはとてつもなく長かった。百メートルくらいあんじゃ無いか?!


 俺以外は見えないその青ラインの上をチルが走る。


 そして、俺のスキルの恩恵を受けているチルを男が殴る……


「オラ! ……ッ!?」


 男はか弱い獣人の少女を殴った筈なのに、拳に伝わる衝撃は、まるで岩を殴ったような顔をしている。


「──ッな、なんだ!?」


 男は痛む拳を抑えて、チルを見る。


 チルも確かに殴られた筈なのに、全く痛みが無い事に驚いている様だ。


 ──ッよし! なんとか成功した。カカにスキルの説明をしてもらった次の日から先読みの訓練を特に意識してきた結果が出たぜ!


 男は何かの間違えだろうと思ったのか再びチルの事を殴る。


「ガード!」


 俺は再び青ラインをチルのいる場所に敷く。


「──ッな、なんなんだよ!」


 男は両方の拳を痛めてしまったのか、両腕をダランと下に下ろしている。そして、チルに何かあると思い全力でチルから離れる様に後ろに飛ぶ。


 それを機にロピは妹のチルに駆け寄る。


「チルちゃん! 大丈夫!? あの男に何もされなかった?」

「う、うん。私は大丈夫。姉さんこそ大丈夫?」


 姉妹はお互いの安全を確認して安堵のため息を吐く。そして、姉妹は床に倒れている俺の方を見る。


「お兄さん、この状況ってお兄さんがやった?」

「……」


 ロピとチルは真剣な目で俺を見ていた。


「あぁ。俺のスキルだ! ロピ! チル! このままアイツをぶっ飛ばすぞ!」


 俺の言葉に姉妹は表情を引き締めて返事をする。


「「──ッはい!!」」


 男は状況が飲み込めず、未だ離れた位置でこちらの様子を窺っている。

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