第1章
第5話 アトス5歳になりました!
「ほら、アトスもっと早く走れ! 」
「いや、無理……はぁはぁ……これ以上スピード上がらないよ……」
シクに拾われてから五年の月日が経った。
俺は五歳になりシクから本格的にこの世界で生き抜く為の術を叩き込まれる様になった。
そして、今日は記念するべき一日目になる。
「アトス! そんなスピードだと小型に追いつかれて食われちゃうぞ」
「そんな事言っても、はぁはぁ……初日の訓練でいきなりこんなに走れないって……はぁはぁ……」
今日の午前中に習った事だがこの世界にはモンスターがいるらしい。
おそらく、俺がこの世界に転生した時に遭遇した大きいイモムシの事だろう。
モンスターは大きさにより分類されているらしく、小さいモンスターから小型、中型、大型、特大型がいる。
なんでも、大型と特大型については夢物語的な感じの様で、見たものは居ない為、誰かの創作だろうと言われているらしい。
「アトスよ、そんな事言っても、モンスター達は考慮してくれないぞ。食べられたく無かったら走れ」
表情を一切変えずにシクが俺に言う。
あれから、五年の間、俺はシクの笑顔を一度も見た事が無い。
そして、訓練初日。
シクの訓練はメチャクチャ厳しい事が発覚した……
「はぁはぁ……シク……一旦休憩……させて……」
「ダメだ。 母親の言う事は絶対だ」
「無理……。もう一時間は走っているって……まだ俺は五歳だぞ!」
前の世界では、スポーツなど一切やった事も無く。学生の頃に授業で身体を動かしてたくらいだ。しかもマラソンは苦手だった。
「アトスは五歳にしたら成長も早いし問題ない。いいから走れ」
赤ん坊の頃から前世? の記憶があった俺の行動を毎日見ていたシクは五歳になった俺を見て訓練しても大丈夫だろうと思ったらしい。
「でも初日だし……はぁはぁ……もっと軽目でいいじゃないか!」
「何を言っているんだ? 今日は、かなり軽目だぞ? 」
「……」
俺は考えるのをやめた。これは何を言っても無駄だな……。
こんな風に厳しいシクだが、私生活ではかなり俺の面倒を見て来る……と言うか見過ぎてベッタリだ。
「徐々に走る量や他の訓練も増やしていくぞ」
鋭い目付きでこちらに向きながらシクが俺に言う。
これは何を言っても休憩させて貰えなさそうなので、黙って走る事にした……クソ! 鬼め!
「ん? なんか言ったか?」
鋭い目付きを更に鋭くするシク。
「はぁはぁ……な、何も言ってません……」
エスパーかよ?!
「いいから、走れ。まずは体力だ。 どんな状況でも走り続けられる様にしろ」
何故俺をこんなに走らせるかと言うと理由がある。
それは午前中の雑学時間の時に説明してくれた。
どうやらこの世界には先程も言ったがモンスターがいる。
ここで言うモンスターとは大きいイモムシの事だが、基本的にモンスターは倒せないのである。
それを最初に聞いた俺は、え?!なんでだと疑問に思った。
アニメや漫画、ラノベなどでは普通魔法や剣などでモンスターを、どんどん倒してレベルを上げて能力アップして、異世界最強! うははは! 的なイメージがあったが……まぁ、少し俺の偏見もあるが、大体そんなイメージだった。
だが、この世界ではモンスターが人間を食べるとモンスター自体が強化されるのだ。しかもこの上がり幅はかなり大きいらしい。
なので、この世界の常識として人々は大人数で群れないのだ。
「人が居る分食われたら、どんどん強くなっちゃうもんな」
村や集落規模の集団はあるが、国や街や都市などと言う大人数が住んでいる場所などは無いらしい。
冒険者という職自体はあるが、やはりパーティは4~6人が基本である。
だが小型モンスターに一人でも食べられたら全滅は免れない。
そういう理由からこの世界ではモンスターに喰われない様に、また食われても最小限の能力アップにする為に基本少人数で行動する者が多い。
街などを作って大人数でいる時にモンスターが攻めてきて人々を食べたら、それこそ街はすぐに全滅してしまうだろう。
「俺が思い描いていた異世界とは、なんか違うぜ……」
また、モンスターの大きさにより大体の討伐人数があったりする。
小型なら4~6人、中型なら15~20人と熟練の冒険者が連携を取って、やっと倒せるのである。
だから小型モンスターは倒せるが中型モンスターを倒すのは至難の技であり、倒すとしても熟練の強者達が必要である。
だが、そんな強者達が一箇所に集まる事は滅多に無い様で、中型討伐は実質無理な状態らしい。
「並の攻撃だと外皮に弾かれるとか本当かよ?」
シクが言うにはモンスターと遭遇したら逃げろ! との事なので訓練ではまず体力を作って逃げる為の術を教えていくらしい。
「よし、アトス止まれ。一旦休憩だ」
「はぁはぁ……やっとかよ……」
「そんな事言っても、走り切れたじゃないか。 偉いぞ」
シクはそう言って俺の頭を優しく撫でてくれる。表情は鋭いが頭を撫でる手つきは愛おしい物を扱う様な手つきだ。
こんな風に厳しいながらも俺の事を凄い大切にしてくれるシクが大好きだ。
俺は気恥ずかしい気持ちを悟られたく無い為シクの顔を見ずに息を整える事に集中した。
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